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□ミルフィーユと競争
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せっかくのデートだけど期末試験が迫っていて、三年生にとってそれはもう一大事だから図書館で勉強会を開くことになった。
本来なら数学なんて見るだけで拒絶反応を起こすところだったが、どうしても受験には出て来てしまうので嫌々ながらもブン太は問題集に向かっていた。
一行書いては、答えやら解き方の説明を読まないとわからなくなるので、あまりはかどっているとは言えないが。
「キレー…」
いつの間にやらちゃっかり漫画を積み上げていた慈郎の感嘆声に顔を上げれば、視線は自分の後ろ、窓の外に向けられていた。
つられてブン太も後ろを振り返ると、遠くに臨む山が見事に紅葉していた。
「紅葉狩りに行きたいねー」
「そんな暇ねぇだろぃ」
「でも、赤もオレンジもいっぱいあるよ!」
好きな色を見つけたのがそんなに嬉しいのだろうか。慈郎はニッコリ微笑みかける。
「黄色もあるCー、秋はまさに俺たちの季節じゃんね!」
「夏じゃねぇんだ?」
「夏は大事で大好きだけど、みんなのモンでしょ?」
「……」
「だけど秋はこんなにも俺たちをしょーちょーする色が溢れててさ」
たかが髪の色なのに。
「おいCものはいっぱいだC〜」
お前は食欲の秋だ!と言いたいのだろうか?まさにその通りで反論は出来ないのが悔しい。
「俺だってほら!読書の秋〜」
積み上げた漫画本を得意気に示してみせる。
…漫画は読書に入れて良いのだろうか?
「だから秋は俺たちの季節っしょ!」
目を輝かせて言う慈郎を見てると、問題が解けないイライラもテストと受験のストレスも吹っ飛んで。
「行っても良いぜ、紅葉狩り」
「マジー!」
「テストが終わってからな」
「よーし、俺頑張っちゃうもんねー!」
手にした漫画を閉じ、張り切ってノートに向かう慈郎を見ながらブン太の胸はチクリと痛む。
慈郎の手元を覗けば、英語で書かれた『葉っぱのフレディ』。


おそらくテスト期間が終わったら、大半の枯れ葉は落ちてしまっているだろう。
きっと慈郎は眉をハの字にしてうな垂れる。予想してたクセに自分もガッカリするんだ。
全く中学生というのは不自由だ。
もう一度チラと振り返って、ぼんやり山を見つめる。
そう言えば、千枚の葉って意味のお菓子があった気がする。ミルフィーユだっけ?
パイとカスタードが重なってて、上手いんだけどちょっと食いにくいヤツ。
もしも、と真剣な顔で問題を解く慈郎を見ながらブン太は計画する。
もしも葉っぱがほとんど残っていなかったら、そん時はミルフィーユを作ってやろう。
しょげ返る慈郎に向かって
「ちゃんとここにあんじゃん」
って言ってやるんだ。
一気に笑顔になる慈郎の顔を思い浮かべて、ブン太は再び数学との戦いに戻った。


E.

残りの千枚が散るのが先か、テストが終わるのが先か。
パイ生地よりも想いを重ねて。

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