short

□ストレイシープ・ララバイ
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ただ触れるだけのキスなのに。もう何度も経験しているにも関わらず、それだけで震えてしまう。
伏せられた睫毛が綺麗だ。


「怖いか?」
「ん、ちょっとだけ」
乾いた笑い声を上げて、慈郎の頭をグイと自分の左胸に押し付ける。
「俺も緊張してる」
「おそろい、だね」
少し強張ってはいるものの笑顔を見れたことに勇気づけられ、ブン太は慈郎のネクタイに手を伸ばす。
毎日自分もネクタイを結んでいるのだ、解き方だってわかっている。しかし今はなかなか上手くいかない。


ようやく解けて、シャツのボタンに手を掛けると慈郎の手に押さえられた。
「やっぱ自分で脱ぐよ。ブンちゃんもその方がEでしょ?」
「あ、ああ」
やや気まずさも感じたが、ホッとした気持ちの方が大きくて意地を張らずに頷いた。
自然とお互い背を向け合って、シャツのボタンを外していく。
脱いだシャツをベッドの下に投げ出して、チラッと振り返ると慈郎も上半身裸になり身体をこちらに向けていた。
自分も慈郎に向き直り、まじまじと慈郎の身体を観察する。
シャツのしたの慈郎の肌は息を呑むほど白い。ずっと色白に見えていたが、それでも日焼けしていたのだと初めて知る。
ならば自分はどうだろうか。慈郎ほど色白ではなかったが慈郎以上に日に焼けている自信がある…あまり見られたくない。


同じことを思ったのか、それとも単に恥ずかしいのか、慈郎は不安げな目をして小さく身を捩った。
その姿を見た瞬間、ゴクリとブン太の咽喉が鳴る。けれど口の中はカラカラで。
両手を静かに慈郎の肩に置く。そのままゆっくり背中へと滑らす。
ゆっくり、ゆっくり。慈郎の肌全ての記憶を掌に刻みつけるように。
まるで赤ん坊のような感触、柔らかく掌に吸い付く。
ズボンまで降りると今度は上に上って行く。肩に戻ったら今度は前へ。
その行為はどこまでも静かだ。耳元では自分の心臓がうるさいくらいなのに。


胸の突起に指が当たった時、ビクンと慈郎の身体が撥ねた。
構わずブン太は作業を続ける。腹まで到達したら、一旦手を離して慈郎の顔を確認する。
泣きそうな顔、今にも。
「やめる?」
聞くと勢い良く首を左右に振る。
「やめない」
小さく、けれどはっきり呟かれた言葉を確認して再び慈郎の身体に手を伸ばす。
左手で胸の突起をキュッと摘み、首筋に唇で吸い付く。
「ん、ふ」
慈郎の口から漏れる切ない、けれど限りなく甘い吐息。
首筋を辿っていくつも慈郎に痕を残していく。
その度に慈郎の身体から力は抜けていき、ついにドサリとベッドに沈んだ。
慈郎に覆い被さるように自分も横になる。


しばらく同じように行為を続けたが、そのうちどうしたら良いのかわからなくなった。
慈郎の顔を見れば、泣いている。何故だろう、自分もだ。
泣き顔のまま目が合うと、それまでずっと受け身だった慈郎の腕が持ち上がり、そっとブン太の背中に回された。
ブン太は体重を支えていた腕がはずれ、バランスを崩し、二人の肌がピッタリとくっつく。
汗ばんでいるのに、気持ち悪いとは思わなかった。
「何で泣いてるの?」
「わかんねぇ」
「実は俺も」
「本当は」
「ん?」
「怖い」
「……」
「俺今すんげえ幸せなのに、幸せ過ぎて怖いてゆーか」
「俺も、幸せ過ぎて怖い」
「そんでお前を壊しちまいそうで怖い」
口にして初めて、ああそうだったのかと自分でも気づく。
行為に及ぶことで、慈郎も今までの関係も壊れてしまいそうで怖かったのだ。
「大丈夫だよ」
「ジロー?」
「俺は結構がんじょーなの」
「でも」
「壊れるとしたら今までブンちゃんと逢えなかった時間にとっくに壊れてるよ」
そうでしょ?と小首を傾げられ、ブン太は慈郎から目を泳がせた。
「別に今日じゃなくたって」
「ブンちゃん」
クイッと顎を掴まれ、再び慈郎と視線が合う。
「今日じゃなきゃダメだって、何となくブンちゃんもわかってるでしょ?」
「……」
「頑張ってよ。俺も頑張るからさ」
そう言って微笑む。
おかしな奴、さっきまで泣いていたくせに。
「わかった」
再びブン太が慈郎の身体に口付けると
「下も脱がなきゃ」
「ああ」
「ブンちゃん、脱がせてよ」
「ったく。甘えんな」
ようやくいつもの軽口を叩けるようになり、ブン太は慈郎のベルトを外す。今度はすんなりいった。
ズボンも下着もいっぺんに引きずり下ろす。
「もっとロマンチックに!!」
「嫌なら自分で脱げよ」
不服そうな慈郎を無視して、ブン太は慈郎のソレを右手で優しく包む。
少し擦ると
「は、ブンちゃ、も、脱い…で」
甘やかな喘ぎ声に従いブン太は自らズボンを下ろす。
「もう止めねーぞ」


やっぱり自分でやるのとは違って、お互いの感じる所ややり方やいろいろ手探り状態だった。
こんな経験は初めてで、繋がり方もよくわからなかった。
きっと慈郎も痛い思いをしただろうし、自分も酷く疲れている。
昨夜頂点に達したのはたった一回。
それでもちゃんと繋がったまま、同じ瞬間にイケた。
逢えない時間や距離をも越えて、ようやく一つになれたのだ。もう朝なんて来なければ良いのに。


それでも朝目覚めた時一番におはようを言えるのが、隣で眠る一番愛しい奴だと考えただけで、それはもう幸せで。
泣いてるんだか、笑ってるんだかわからないままブン太は眠りに落ちていった。


E.

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