short

□宝もの探し
1ページ/1ページ

この間は俺ん家に来たからって、今日はジローの家に誘われた。
ジローん家に来んのはこれが初めてだ。
一階がクリーニング屋になってるから、裏口から家に入るとか俺ん家と違って面白い。
ジローの部屋は和室で畳なのにベッドが置いてあって無節操。
本棚にはマンガが所狭しと並んでいる。
テニスの関連の物もあっちこっちに転がっていて、アイツのテニス好きを物語っている。
それにしてもアイツ遅いな。
「おやつ持ってくる!」
って出てったきり、なかなか戻って来ない。
もう一度部屋を見回して、俺の中に良からぬ企みが生まれた。
そういや俺、アイツにリストバンド取られたことあったよな。
「いっつもリュックに入れてるんだ〜」
なんて幸せそうに笑ってて、取られたことを怒る気も失せた。
アイツは俺から貰った(ほぼ奪った)モンがあって、俺には今のところそれがない。
それはつまりアイツはいつでも俺を思い出せるモンがあるのに、俺にはねぇってこと。
よくよく考えればそれってずりぃじゃん。
よし、決めた!今日は俺もこの部屋の何かを頂いて帰る!


張り切って部屋を探索してみるけれど、これがなかなか難しい。
マンガは巻数が抜けてたら絶対ぇ気づかれるだろうし、マンガ好きのアイツは烈火の如く怒る。下手すれば絶交、それは遠慮したい。
じゃあリストバンド同様テニス関連のモノって考えるけど、アイツはリストバンドもチタン製品も付けねぇみてぇだし。
ラケットやシューズなんて高ぇモンは論外。
何か良いモンねーかなー・・・。
あちこち歩き回ってダメだこりゃと屈んだところで。
「お」
勉強机の下にホコリを被って転がっているのを発見。
どこでも売ってるカットバン。
箱を開けるとほとんど中身は残っていた。
何かでケガして使って以来、存在を忘れられているんだろう。
ホコリを被ってたくらいだし、勝手に持ち出しても気づかれねぇだろぃ。


俺は急いでホコリを払うと、カットバンの箱をリュックに押し込んだ。
すぐに足音が聞こえて来て
「ブンちゃんお待たせー。店に近所のおばさんが来ててさー」
つかまって話してたー。と笑ってたジローは俺を見て不思議そうな顔をした。
「どうしたのブンちゃん、ニヤニヤして」
「別に」
なあ、こんぐらい良いだろぃ?大切に使うからさ。
「おやつ食おうぜ」
「ああ、うん。そだね」
いつかは目の前で笑うお前ごと、この部屋から貰ってくけどな。


E.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ