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□好きの要素
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「丸井君にとって、桑原って何?」
「はあ?」
テスト明けのちょっと浮かれた空気の中、部活はないけど遠出も出来ないという状況で、だけど少しでも逢いたくて、駅で落ち合い近くのファースト・フード店に入った。
適当にドリンクとポテトを注文しテストの出来なんかを喋っていたら、突然慈郎がそう言った。
コイツはまた何を、と半眼になって見返すが慈郎の顔はいたって真剣そのもの、納得のいく答えを聞くまでは譲るつもりはない!とばかりにいつもよりしっかりと目を見開いてこっちを見ている。
「だってただのダブルス・パートナーって言うにはちょっとただならぬ何かを感じるんだよね」
「……」
「でも丸井君には俺っていう可愛い恋人がいるワケだCー」
「自分で言うな」
「で、結局何?」
「あー・・・」
確かにジャッカルとペアを組むのが一番やりやすい。ダブルス・パートナーとして信頼もしている。だがそこには慈郎の言うように恋愛的感情は一切含まれておらず・・・
「手足的存在」
「Aぇー!何ソレどーゆー意味!」
どうもこうもブン太としてはそのままの意味なのだが、どうやら慈郎には間違った伝わり方をしたらしく、明らかに疑いの目でじとーっと睨んで来る。
明らかに誤解とわかっていて喧嘩をするつもりもブン太にはなく、必死で天才的打開策を考える。
ブン太にとって手足というのはつまり
「跡部で言う樺地みたいなもの?」
若干違うような気もするが、他に説明のしようもないのでとりあえず言ってみた。
それを聞いた慈郎はしばし逡巡し
「あ、納得」
と頷いた。
内心ホッと息を吐くのと同時に、からかってやりたい衝動がムクムクと顔を覗かせる。
「何?お前ジャッカルに嫉妬してんの?」
「んー・・・」
ポテトをもさもさ食べ、コーラで流し込むように飲み込んでから再び慈郎は口を開いた。
「逢えない間にさぁ、考えてたんだよね。俺は丸井君のどこが好きなんだろうって」
「で?」
込み上げてくる嬉しさに緩みそうになる頬を必死で抑え、ブン太は続きを促す。
「丸井君てさぁ、ちょいちょいうちのレギュラーの要素持ってるよね」
「は?」
さっきまでの喜びは何処へやら、今はひたすら首を傾げる。
ブン太の様子など気にも止めずに、慈郎はテーブルを見つめながらしみじみと語り続ける。
「例えばさあ、丸井君の髪の色って岳人と似たような赤色だC」
「……」
「宍戸、あいつはミント味限定だけど、たまにガム噛んでんだよね」
聞けば聞く程ブン太の眉間にシワが寄って来る。
さっきはあれほど回避したいと思っていた喧嘩を、自分の方から吹っ掛けてしまいそうだ。
「そういう知り合いに似た空気を持ってるって言う安心感?から好きなのかなぁって思ったんだけど」
「・・・けど?」
我慢の限界ギリッギリのところで絞り出した声は、腹に響く重低音。
「逆だった」
「逆?」
全く想像していなかった答えに思わず怒りを忘れる。
「そーなんだよ!丸井君を好きにならなかったら岳人の髪の色なんて気にも留めなかったC、宍戸がガム好きだってこと全っ然知んなかった」
言い終わると同時に、顔を上げてニカッと笑顔を向けて来る。
嬉しさと気まずさと恥ずかしさでブン太はちょっとどういう顔をして良いのかわからない。
「ばーか。俺の髪は向日より明るくてずっと綺麗な赤だろぃ」
「うん!」
「宍戸と違って俺はガムにも好き嫌いはねーんだよ」
「さっすが丸井君!」
「わかりゃ良いんだよ、わかりゃ」
照れ臭さを隠す為にズズッとコーラを飲み干す。
コップをテーブルに戻して慈郎に視線を向けると、再び深刻な顔をしていた。
「だからね、俺は丸井君と仲良い人に似てんのかなぁって。だから丸井君は俺を好きなのかなぁって」
「ああ、それでジャッカル」
ようやく自分も納得出来てブン太は今日一番の笑顔を浮かべて言ってやる。
「お前とジャッカルは真逆のもんだろぃ」
パアァッと華が咲くように顔を綻ばせて
「丸井君、大好き!!」


E.

(でも俺はたとえ丸井君の髪が青でも、ガム嫌いでも絶対丸井君に惚れてると思うんだ)

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