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□願い事は三回
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山の気圧は平地より少し低くて、すぐさま慈郎はふわぁと欠伸を一つ。
「寒くねぇ?」
「うん、平気」
気遣わしげに声を掛けて来たブン太に目を擦りながら笑顔を返す。
地面に直接座る慈郎に呆れつつ、ブン太はリュックの中からレジャーシートを取り出し丁寧に敷いていく。
手招きをされて慈郎も腰を上げてズボンを払いシートの上に座り直す。
並んで座って一枚の毛布を被ると、二人の身体は自然とくっついた。
ぼんやり空を眺めていると、ブン太から紙コップを手渡された。
ポットに淹れてきたホットミルク。口に運ぶと微かに蜂蜜の味。
じんわりと温かさが広がって来て、それが何だかこそばゆくなりもっとブン太に身体をくっつける。
ブン太の方も満更嫌ではなさそうだ。
「見れるかなぁ?」
「まあ雲も少ないし、いけるんじゃねぇ?」
「見つけたらブンちゃんは何をお願いすんの?」
「んーと・・・お前は?」
「えへへ、ナイショ」
慈郎を小突いたブン太の視界の端に、キラッと光るモノが映った。
それは慈郎にも見えたようで
「ブンちゃんほらお願いしないと!」
しかしブン太が空を振り返った時には、光はもう消えていた。
「あー残念」
しょんぼりとする慈郎だったが、二つ目、三つ目と立て続けに星が流れ出しパッと顔を輝かせた。
「スッゲェ・・・」
「だな」
それっきり黙って空を仰ぐ。息をするのも憚れるような流星群の下。
一つの煌きは一瞬で、願いをかけるのは間に合わない。
それでもこの想いには、流れ星だって追い付けない。

――ずっと二人でいれますように――


E.

(ああ!願い事すんの忘れてた!)
(やっぱお前馬鹿だろぃ)

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