special

□一万回の好きよりも
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「好き」
「知ってる」
特別なことなんて何もなくて、いつもみたいに街を歩いて。
疲れたから喫茶店で休みながら取り留めのないおしゃべり。
その会話がほんの一瞬途切れた隙に。
ありったけの誠意を込めて、俺が放った言葉はあっさりブンちゃんに流された。
まるで天気の話してたみてぇに、顔色一つ変えずにコーラ飲んでる。
「ねえブンちゃん」
「何?」
「俺今ブンちゃんのこと好きって言ったんだけど」
「そうだな」
「感想は?」
「そんなん今更だろぃ、俺たち付き合ってんだぜ?」
「うー」
「何だよ?」
「ブンちゃんは俺のことそんなに好きじゃないんだー」
「何でそうなんだよ」
ヤレヤレって感じで肩をすくめる。
ブンちゃんがちゃんと俺のことを好きなこと、俺だってわかってるよ。
だけど本人の口から直接聞きたい!っていうこのオトメゴコロを、もっとブンちゃんは理解すべきだと思う。
「なージロー?」
「……」
「言葉ってのは力が宿ってるから、大事にしねぇと」
出たよ、ブンちゃんの言霊説。
「やたら好き好き言やー良いってモンじゃないんだぜ?」
でも俺は、好きって思った瞬間に、好きって伝えたくなっちゃうんだ。
それはどーしよーもないくらいに、ブンちゃんが好きってことで。
「だから今日くらいは」
「好きって言ってくれんの!?」
「愛してる」
「!!」
「感想は?」
「…知ってるもん」


E.

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