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□等身大
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五月五日はこどもの日。
男ばかりの三人兄弟だから、毎年鯉のぼりやら兜人形を飾って祝う。
この日限定で柏餅やチマキを食べるのもブン太の楽しみだ。
加えて今年はもう一つ特別な意味を持つ。
五月五日は芥川慈郎の誕生日。
あどけない幼さの滲む顔や行動、なんてピッタリな日なんだと聞いた当初は思わずふきだした。
それを見てむくれる姿もなんとも子どもっぽかった。
しかし、問題はそこではない。
プレゼントを贈らなくては。
そのことに気付いたのは先月の自分の誕生日。
慈郎が家に押しかけて来て、一夜限りのマジックショーと言う不思議なプレゼント(?)をくれたのだ。
もちろん慈郎の誕生日は祝ってやるつもりだったし、時々プレゼントは何にしようか考えたりもした。
何となく頭の隅にあったものが、自分の誕生日という日に頭の真ん中に飛び出して来た。
そして、自分の財布の中身を確認して青褪めた。


その日からブン太は、それはもう涙ぐましい我慢を続けて、部活の後の買い食いを断った。
これみよがしに寄り道していく赤也や仁王に負けることなく……まあ、どうしても腹が空いて仕方がない時はジャッカルにたかったりもしたが。
なんとかかんとか、贈り物が出来る程度の小遣いを貯められた。
そして悩みに悩んだ末選んだ品物を届けに、電車に揺られているのである。


「こどもの日って絶対ぇ休みだから、同級生におめでとうって直接言われること少ないんだよねー。ゴールデンウィークだから、みんな旅行行っちゃうC」
そう、やや不服そうに言っていた。
ならば、自分が祝ってやろうではないか。もともと学校が違うのだから、たとえ平日だって学校で祝うことなど不可能なのだし。
恋人に会うのに、まるで敵陣に向かうかのような面持ちでチャイムを鳴らす。
数秒して
「ハーイ」
という返事と共に、ドアが開かれる。
「ブンちゃん!!」
「よう」
満面の笑みを浮かべる慈郎に、何故だか照れ臭さを感じながら挨拶をした。
つい、目線が下向きになり、ハタと気付く。
おびただしい数の靴。奥の部屋が騒がしい。
「ちょーど良かった!今氷帝のみんなが誕生会開いてくれてんの!ブンちゃんも混ざろー!!」
それを聞いた瞬間、サッと包みを背後に隠した。
「いや、俺は良い」
「A、何でー!!」
「誕生日オメデトウ」
「ありがとー!へへ、ちょー嬉C!!」
屈託なく笑う慈郎から目を逸らし
「じゃあ俺帰るわ」
と踵を返す。
「ええ!何しに来たのさ!!」
「お前の誕生日を祝いに」
「じゃあ、ハイ!」
勢い良く差し出される両手。
「何だよ?」
「プレゼントちょーだい!!」
「ねえよ、そんなもん」
「Aー!!」
頬を膨らます慈郎を後目に、ブン太はドアに手を掛ける。
「じゃー駅まで送ってくよ」
「誕生会なのに主役が抜けんのかよ」
「ちょっとぐらいEでしょ。帰ってくればみんなとはまた遊べるもん。けどブンちゃんとの時間は今しかねえじゃん」
慈郎が無邪気に笑う度に、ブン太の中で何かが疼く。
それを上手く処理出来ないまま、しぶしぶ同行を許可した。


「えへへー。わざわざブンちゃんが来てくれるなんて、思ってもみなかったC、俺マジマジ嬉Cよ!!」
「別に大したことじゃねえだろぃ。氷帝のヤツらも来てるんだし」
「距離が違うじゃん。おめでとう言うために、わざわざ電車乗って来てくれるんだもん。これって愛だよね!!」
「……」
「さっきはプレゼント欲Cなんて言っちゃったけど、俺ブンちゃんがいてくれれば何にもいらないんだ」
五月五日は芥川慈郎の誕生日。
そして五月五日はこどもの日。
ならば、下らない見栄なんか捨てて、子どもに戻ってしまえば良い。
「やる」
呟きと共に、後ろ手に持っていた包みを渡す。
「え?」
「言っとくけど、氷帝のヤツらみたいにたけーモンじゃねえぞ」
「値段じゃないよ!ブンちゃんが俺のこと考えて選んでくれたってことが大事なんだC!!わーありがとう!一番嬉Cよ!!」
「中身見ないで言う言葉じゃねえぞ」
「今開けてE?」
「好きにしろぃ」
嬉しいという割に、包装紙をビリビリと豪快に破いていく。
その子どもっぽさには呆れを通り越していっそ感心する。
「かっわE!羊柄の枕カバーだ!!」
「お前、枕カバー替えんのが日課なんだろぃ?」
「うん!ありがと!!ちょー大切にする!!ヨダレ零さないように気を付けなきゃ!!」
慈郎のハシャギように、ブン太の疼きが溶けていく。
「別に零しても良んじゃねえ?俺と寝る時我慢出来んの?」
「ブンちゃん!!」
思考回路が子どもとは言え、さすがに今の言葉の意味はわかったらしい。
顔を真っ赤にする慈郎に、トドメとばかりに芥川慈郎ナンデモ券を突き出す。
「来年の誕生日は俺の為に空けとけ」
「あ、う」
「返事は?」
「もっちろん!!」


E.

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