special

□いつも通りの朝が来て
1ページ/1ページ

自分の知らないところで地球は回って、いつの間にか新しい年が始まっていた。
マナーモードに設定した枕元の携帯がピカピカとメールの着信を告げている。
だけどもブン太はメールを開こうとはしない。
新年の挨拶は年が明けてから見るべきだ。自分の時間は去年の延長線のまま新しい年は始まっていない。
頭は冴えているが眠らなければ今日が終わらない。周りと過ごす時間がズレてしまう。
だからブン太は目を瞑る。上手く年を越えられるように。


うつらうつらしてるうちに母親に呼ばれて家族内での挨拶が始まった。
去年までと同じように雑煮やお節料理を食べているうちに、時計と自分の時間が噛み合ってくるのを感じる。
届いた年賀状を仕分けし、初詣に出掛けるという家族を見送ると、待ち人が来るまでの間にメールを読む。
クラスメートや部活仲間、ほとんどは年賀状を出した相手ばかりだ。
思いがけない相手からは後でメールを返すか。
ボンヤリとそんなことを考えているとようやくチャイムが鳴った。
「明けましておめでとうございます!!」
「今年もシクヨロ」
「はいこれ」
「あ?」
挨拶もそこそこに笑顔でジローが差し出したのは
「これってもしかして年賀状?」
「そうだよー」
どうせ間に合わなかったんだろうなと思いながら、今更慈郎にツッコミをいれる気も起きず、ブン太は無言で受け取った。
「初詣行こう!初詣!」
「ちょっと待ってろぃ」
上着とマフラーを身に付け、戸締りをして出掛ける。
慈郎が腕に纏わり付いて来る。
「人前ではやめろ」
「Eじゃん、クリスマスに会えかったんだCー」
「ったく」
部活仲間ならまだ良いが、顔見知り程度の知り合いと鉢合わせたりしたら面倒だ。
そう思うのに振り解こうとしないのは、やっぱり少しでも触れ合っていたいからだ。


「人少ないんだけどホントにこっちで合ってんの?」
「良いから黙って付いて来い」
やや疑いの目を向けていた慈郎だったが、角を曲がって鳥居が見えた所で再び慈郎はハシャギ出した。
「わースゲー穴場じゃん!」
こぢんまりとした神社に他の参拝客は見当たらず、ブン太と慈郎の二人だけだ。
「おみくじ引こう!!」
「その前にお参りだろぃ」
賽銭箱に小銭を投げて鈴を鳴らし、掌を合わせる。
ブン太が目を開くと、慈郎は熱心にまだ何かを祈っていた。
「気ぃ済んだか?」
「うん!ブンちゃんはお願いごとした?」
「まあ一応。けどホントは神社って願い事する所じゃねぇんだってよ」
「じゃあ何するとこ?」
「目標を掲げて努力しますって宣言する所らしいぜ」
「へー」
ブンちゃん物知りだねーと呟く慈郎の頭を撫で、おみくじ機に向かう。
「先に引けよ」
「やったー!」
いそいそと百円玉を入れる慈郎に続き、ブン太もくじを引く。
「せーの」
同時に開くとそこには
「嘘だろぃ」
「ウッレC!!」
大吉の慈郎と凶のブン太。
勝負運は自分の努力次第。勉強はいまひとつ。恋愛運は……
「「試練多し」」
なぜか二つ重なる声。
「え、お前も?」
「うん。恋愛だけあんま良くないみたい」
「先が思いやられるぜ・・・」
「でも良かったー」
「どこがだよ」
「だって二人とも同じこと書いてあるってことは、今年も別れないってことっしょ?」
「別れるキッカケはゴロゴロしてるみてぇだけどな」
「一人だけだったら無理かもだけど、二人ならだいじょーぶ!」
「じゃあ、結ばずに持って帰るか」
「Eの?」
「慈郎と別れないって宣言、境内の代わりにコレに言っとく」
「あ、じゃあ俺のもあげるー。二人で乗り越えられますよーに!」
受け取ってポケットに大切にしまうと、今度は自分から手を繋ぐ。
「あ、ブンちゃんケータイ鳴ってる」
表示には一番嫌いな相手からの着信。
今朝なら通話せずに切るところだが、今は慈郎に悪ぃと断って
「よー跡部」
「氷帝レギュラーで初詣に行く予定だったんだが慈郎が来なかった。まさかテメーのとこに行ってるんじゃねぇだろうな」
「そーだけど?」
「アーン?正月そうそう慈郎に手ェ出してんじゃねぇぞ」
「もー遅いかも。俺らラブラブだぜぃ、羨ましい?」
跡部と聞いて約束を思い出したのか気まずそうにしている慈郎に、笑いながらキスを落とす。
電話も人目も気にしない。
「じゃーな跡部!良いお年を」
「テメー待ちやがれ!」
一方的に電話を切って、これからの予定を思案する。
試練に負けないように最高のスタートを切らなくては。


E.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ