special

□Treat,Treat!
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ハロウィンなんてクリスマスやバレンタインと違って、認識はあるけれど意識はしないイベントだ。
それもその筈、日本では子どもが夜に出歩くなんて考えるだけで恐ろしいし、訪ねて来るであろう見ず知らずの子どもたちの為に大量のお菓子を用意しておくなどということはありえない。
ブン太だって仮に弟たちの同級生が思い思いの仮装をし、家に遊びに来て
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」
と言われたところで
「やれるモンならやってみろぃ!」
と突っ撥ねるのがオチだ。


それなのにブン太は今、吸血鬼の格好を真似ていて、冷蔵庫では手作りのかぼちゃプリンが冷えている。
今日が土曜日じゃなければ。
きっと家族も遊園地のハロウィンイベントに出掛けなかっただろうし、慈郎もあんなことを言い出さなかった筈だ。
「俺一回で良いからハロウィンやってみてぇ」
「何?コスプレでもやんの?」
「そうそう。お化けのカッコして〜、お菓子くんなきゃイタズラするぞ!って」
そんなワクワクした顔で言われたらもうブン太に言えることは一つしかなくて
「二人だけでも良いならやってやる」
「マジで!?ブンちゃん大好き〜」


そして今に至る。
つくづく自分は慈郎に甘いなと痛感しながら、もう一度鏡を見直す。父親のスーツを勝手に拝借して着てみたのだが、なかなか悪くない。身長が足りないのは否めないところだが、いつもより五割まし大人に見える…マントと付け牙が無ければ。


ピンポーン。
チャイムに慌てて階下に降り、玄関のドアを開ける。
「Trick or treat!」
「ジロー・・・」
ずっと待っていた恋人の格好を見るなり、ブン太は絶句した。
慈郎が選んだ仮装はミイラ男。つまり全身包帯グルグル巻き。顔の部分だけが開いている。
「お前まさかずっとそのかっこで来たんじゃ…」
「エヘヘ、電車ん中とか注目の的だったよ!でもやるなら本格的な方が良いっしょ?」
悪びれもせず胸を張る慈郎に、何だかブン太は問答無用で既にイタズラをされた気分になった。
「ブンちゃんはドラキュラなんだね!かっちょAー」
ニコニコと笑う慈郎とは真逆のテンションで、ブン太は慈郎を家の中へと招き入れた。これ以上その格好で外に立たせておけまい。
「あーブンちゃん選んでないC!お菓子かイタズラか選んでから家の中に上げるんだよ!」
不服そうな顔をしているコイツには何を言っても無駄だろう。
「・・・ならお菓子やるよ」
「そー来なくっちゃ!でもちょっと残念かも〜。俺色々イタズラも考えて来たのに」
「イタズラは充分されたから」
「A〜どういう意味?」
それには答えず、慈郎をリビング残し自分はプリンを取りにキッチンへ。
透明なガラスの器に飾って、ジュースと一緒に持って行く。
「わーかぼちゃプリンだ!ブンちゃんお手製?」
「天才的?」
「うん天才!さっすがブンちゃん」
ちょーおいCー!と歓声を上げながら半分まで食べたところでハタ、と慈郎の動きが止まった。
「ブンちゃんまだ言ってないよね」
「あ〜?」
「ほらちゃんと言わなきゃ!はい、Trick or Treat!」
「…Trick or Treat」
言わなきゃまたごねるんだろうなと渋々ブン太が決まり文句を言うと、何故か慈郎はうっすら頬を赤らめて
「トリックで」
「いやイタズラなんて何も考えてねぇけど」
「Aぇー!何ソレブンちゃんノリ悪過ぎ!」
「そんなこと言われても」
「今日は二人っきりなんだよ!その状況で恋人にイタズラって色々あるでしょー、何されても良いつもりで俺来てんのに!」
そうは言われても、その恋人の格好はギャグのようなミイラ男。
「ああもうEよ!ブンちゃんなんかお菓子と結婚しちゃA!」
投げつけられる慈郎のリュック。
尋常じゃない重さに開けて中を確認すれば大量のお菓子。
数種類のガムはもちろんのこと、自分の好物のムースポッキー、かぼちゃ型のクッキーやら、王道のペロペロキャンディ。それらがリュックがパンパンになるまで入っていた。
「用意してんじゃん」
「それはちょっとイタズラされてからあげる予定だったの!」
「多過ぎねえ?」
「だってブンちゃん大食いだから」
拗ねたようにプリンをつつく慈郎はこっちを見ようとはしない。けれど
「足んなかったら俺を食べてもEよ」
その一言で、ブン太の中に火が点いた。
「全然足んないんだけど」
振り返った慈郎を間髪入れずに押し倒す。
「たっぷりイタズラしてやるぜ」
まずは包帯を解いて、その下の服も脱がせて。
本物の吸血鬼さながらに首筋に噛み付く。


きっとお前の血はここに並ぶどんなお菓子よりも甘い。


E.

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