† sin2 (短篇小説)
□泣かない月を抱いて 【痛みさえも】
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(hyesung side)
「まだだ、まだ足りない」
「へソンが欲しい」
そう言ったエリクに、
一度達して、力の抜けてしまった身体を
抱き起こされ、再び求められた。
エリクの膝の上で、抱かれ果てる。
エリクが、優しい仕草で髪をかきあげ、
啄ばむように、唇にキスをした。
次いで、額に 瞼に 、頬に、
優しくて穏やかな、エリクのキスを受け止める。
髪を撫でる手つきも、この上なく優しくて、
いつものように、エリクに抱かれながら、
身体の奥にエリクを感じながら、眠りにつくはずだった。
髪を撫でていたエリクの手が、不意に止まった。
微睡みかけていた意識が、覚醒へと引き戻される。
瞳を開けると、エリクの視線は、
さっき開けたばかりの、ピアスをした耳に、注がれていた。
「綺麗だな。ヘソン 」
そう言って、エリクが耳朶に口づける。
髪を撫でていた、エリクの長い指が、
ピアスをしていない、もう片方の耳朶に触れる。
「こっちも、開けるか 」
エリクが唇を、寄せ甘く噛んだ
突然の行動に、身体がビクッと、強張った。
さっき開けられた時の痛みを、瞬時に思いだす。
「エリク・・・・」
「針、取れよ」
エリクがサイドテーブルを、顎で示す
躊躇する、俺に
「嫌なら、しないよ 」
「嫌じゃない 」
即座に答える。
耳朶に、針の先がチクッと触れた。
ぎゅっと目を瞑り、唇を噛み締めた。
「怖いか?」
エリクが聞く
「怖くない 」
怖いけど、怖くない
エリクの与えてくれるものなら、
きっと痛みさえも、愛しい
いつまでたっても、来ない痛みを
不思議に思い
ゆっくりと目を開けた。
視線の先、見つめたエリクの眼差しは、
深い闇の底にいるようで・・・・・
泣いていないけれど、
エリクが、泣いているように見えて
涙が、零れ落ちた
「いいよ、エリク、早く開けて」
それで、エリクの気が済むなら
「嫌だ、って言えよへソン」
そう言うエリクの、首に両手を回し、しがみついた。
「エリクになら、何をされてもいい、って言っただろ」
背中に回されたエリクの手が、優しく撫でる
「エリク、愛してるよ 」
エリクを見つめて、言う。
泣き出しそうに歪んだ、エリクの顔が
すぐに綺麗な微笑へと、変わる。
エリクが笑う
笑っているけれど、
エリクは、きっと泣いている
「泣くな、エリク」
「泣いているのは、お前だろ」
「俺の全部をお前にやる、だから、そんな風に泣くな」
言葉が足りなくて、お前が不安になるのならいくらでも、言うから
「エリク、愛してる 」
「ずっと、愛してる」
2009年05月03日(Sun)