† sin2 (短篇小説)
□ 枷 【痛みさえも】
2ページ/2ページ
(eric side)
腕の中に、ヘソンを抱けない日があると、
自分の身体の一部分が、欠けたような、心許無い気分になる。
そんな日に限って、画面の中のヘソンは、
零れんばかりの笑顔で、共演者に笑いかけている。
俺以外の奴に、笑いかけるな
ヘソンを見ていたいけれど、
他の奴に笑いかけるヘソンは、見たくない
モヤモヤと、黒い霧が立ちこめるように、
何かが心を覆っていく。
ヘソンの首筋に目をやる。
俺が付けた赤い所有印は、とうに消えているはすだった。
仕事から帰ってきたばかりの、ヘソンに 向かって、放り投げた小さな箱 。
「何?」
ヘソンが訊ねる
「ピアス、お前に似合いそうだったから 」
「エリク、もう穴、塞がってるよ 」
「あっ、そうか 」
「開けてやるよ」
「えっ?」
驚いているへソンを、そっと抱き締める。
「俺が、開けて、はめてやるよ」
小さく開いた唇に、啄むようにキスをした。
「お前は、俺のものだから、
誰にも触れさせない
誰にも傷つけさせない 」
へソンの耳にかかった髪をかきあげ、 耳朶に口づける。
「お前を、傷つけていいのは、俺だけだ」
「ピアスは、エリクのものだって、証になるの?」
「そう・・・だ」
首を傾げてヘソンが聞く。
そんな仕草の一つ一つが、可愛くて、
赤い小さな唇に、そっとキスをする。
証と言うよりも、枷なのかもしれない。
ヘソンが俺のそばから、離れないように、
どこにもいかないように、小さなそれで縛り付ける。
「いいよ」
「嫌だって、言えよ」
「じゃ、嫌だ。」
「嫌だって、言われてもやるよ 」
ヘソンがあきれ顔で見返している。
「どっちなんだよ 」
極端な照れ屋で、愛の言葉をめったに口にしない
ヘソンが、いつか言った
『エリクになら、何をされてもいい』
その言葉が、俺を甘く追いつめる。
俺がこの手で傷つけ、 枷(ピアス)をつける。
「お前が選べ」
「・・・?」
「痛い思いをするのは、お前だから」
「いいよ、俺はエリクのものだから 」
ヘソンが躊躇いもなく言う。
どうして、こんな時に限って、そんなに素直なんだよ
お前を傷つけようとしている俺を、簡単に許すな
2009年05月02日(Sat)