† sin3 (長篇小説)
□夢から覚めても あなたを想う
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夢みたものは ひとつの愛
願ったものは ひとつの幸福
それらはすべてここに ある と
立原 道造 【夢みたものは】 より
「ヘソンが、泣くんだ 」
連絡もせずにいきなり、
マンションにやって来た、エリクひょんが、
リビングのソファーに座るなり、そう言った。
「えっと、それは、どういう状況でのこと? 」
二人は、付き合って間もない、
ヘソンひょんが泣くことも、いろいろあるだろう。
「夢を見たって、言ってるけど、
目が覚めても、俺を見て泣くんだ」
「ああ、それか」
「どんな夢か知ってるのか?」
「知ってるけど、ヘソンひょんは、なんて言ってるの? 」
「怖い夢、見ただけだって」
「そうなんだ 」
「どんな夢なんだ? 」
「ヘソンひょんが言わないのに、俺が話す訳にはいかないよ」
ヘソンひょんが、言わないのには、
きっと、何か訳があるんだろう、
そう思い断った。
「ジニ、教えてくれ」
そう言って、エリクひょんが、頭を下げる。
エリクひょんが、俺に頭を下げるなんて、初めてじゃないか
驚いて、見下ろす俺に、
「あんな風に泣く、ヘソンを見るのはつらいんだ」
エリクひょんに、いつになく真摯な眼差しで言われ戸惑う
「たとえ、夢の中だとしても、へソンには、笑ってて欲しい」
夢を見て泣くヘソンひょんを、俺は何年も見続けてきた。
エリクひょんと、想いが通じあって
もう夢を見て泣くことも、ないだろうと思っていた。
「エリクひょんを、探す夢だよ 」
「えっ? 」
「ヘソンひょんは、いつもエリクひょんを、探す夢を見てたよ。
エリクひょんを探して探して、でも見つからなくって、
いつも同じ夢を見て、夢の中でも、泣いていたよ」
夢を見て泣いてたヘソンひょん
夜中に泣き声で、目を覚ますと、隣りでヘソンひょんが、泣いていて
肩を揺すって起こすと、決まって
「エリクどこ?」
そうやって、夢と現実の狭間でも、エリクひょんを探していた。
現実でつらい思いをしていたヘソンひょん、
せめて幸せな夢が、見れるようにと、
祈り続けていたけれど、
非現実的な夢って、
案外、人は見ないもので、
夢には人間の深層心理が、現れてくる。
「ヘソンひょんはあの頃、エリクひょんに嫌われて、
避けられてると思ってたから、そんな夢、見てたんだと思うよ」
「そうか 」
エリクひょんが、呟く
「怖い夢か、確かにそうかも知れないね
へソンひょんにとっては、エリクひょんがいなくなることほど
怖いことは、ないだろうから」
「もうそんな夢、見る必要は、ないんじゃないか? 」
「うーん、そうだよね 」
エリクひょんと、想いが通じあっても、
同じ夢を見るのは、どうしてなのか、
何が、へソンひょんを、不安にさせているのか、
俺には、わからなかった。
2009年05月11日(Mon)