† sin1 (短篇小説)

□揺れる ちょうちょ 【へそんの帯】
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【前篇】





「痛いっ 」


胸を押さえながら、エリクが呻く

ったく、顔に似合わず、馬鹿力だって

しかも、

『宇宙に帰れ』

ってのは、どういうことだよ。

わけのわからない言葉と共に、ヘソンに突き飛ばされたエリクが

小さな声で、文句を言っている。





「全く油断も隙も、あったもんじゃない

さっさと、その帯結べよ」


顔を真っ赤にしたへソンが、チラリとエリクを、横目で見て

ぶっきらぼうに、言い放つ。





「わかったよ」


ここで、ヘソンの機嫌をそこねて、

せっかく着せた浴衣を、脱がれたら

元も子もない、

渋々、エリクがヘソンの腰に、帯を巻きつけ、

器用に、結びはじめる。



『どんわん、誰にこんなこと、教えてもらったんだ・・・?』

さっき聞くの忘れたな



ドンワンに、浴衣を着せてもらったエリクは

『へソンに、絶対!似合うから ♡ 』

と目を輝かせて言う、ドンワンに、

この結び方を、教わって来たのだった。




一人にんまりする、エリクの不穏な気配を感じたのか

へそんが帯を見ようと、身体を捩じる。



「動くなよ」



キツイ口調で言われ、

気をつけ!の体勢のまま、固まるヘソン。

微動だにしないへソンを見て、

笑いをこらえながら、エリクがせっせっと、手を動かす。




「出来た!

へソンの細い腰には、やっぱりこの結び方だよ」


他の結び方を、知りもしないのに、満足そうにエリクが言う。





「できた?俺、見れない・・・」


へそんが、体を捩じって、腰のあたりをみるが、

帯は全く、見ることができない。




「大丈夫、可愛いく結べたから、心配するな」



「可愛くってなんだよ、絶対、変な結び方してるだろ?」



へソンが、ぶつぶつ文句を言いながら

帯を見ようと、何度も後ろを振り返る

その仕草までも、かわいいってことに

本人は、気付かない。




「可愛いなぁ〜、ヘソン」

ヘソンの腰で揺れる、ちょうちょの帯を見て、小さな声で、呟く。





『たまには、ドンワンの言うことも、聞いてみるもんだ』



一人、ほくそ笑むエリクに




「なに、ニヤニヤしてんだよ、ばぼエリク

結び直せよ」


エリクが呟いた、可愛い、という言葉は、

ヘソンにも聞こえていて、機嫌の悪くなったヘソンが、

唇をとがらせて、拗ねたように言う。





「え〜、やだよ、せっかく可愛く、結んだのに」





「可愛いとか言うな〜」


何度も可愛いと言われ、怒ったヘソンが

いきなり、後ろに手を回したかと思うと、

帯を引っ張って、グチャグチャに崩した。







2009/07/12
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