† sin1 (短篇小説)
□ウィトゲンシュタインの6インチ 【へそんの帯】
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「これ、どうやって結ぶんだ? 」
半ばエリクに無理やり、浴衣を着させられたヘソンが、
戸惑った表情を浮かべて、エリクに帯を差し出した。
「ああ、それはこうやって・・・・ 」
ヘソンの腰に、帯を回しかけたエリクの手が、ふいに止まった。
「エリク? 」
どうしたんだろう ?
帯を手にしたまま、考え込んでいるエリクを
へソンが不思議そうに、見上げた。
「地球の赤道に、帯を巻いたとする、
その長さに、プラス 1ヤードして
均等に張りつめたら、
地球とその帯の隙間は、どれくらいだと思う?」
エリクが、渡した帯で輪を作って、へソンの目の前に掲げる。
「えっ?なに?隙間?
0.000000000001インチぐらい?
わかんないよ・・・・・
隙間なんて、ほとんどないんじゃないの?」
唐突なエリクの質問に、面食らいながらも、律儀にヘソンがそう答えた。
「残念でした。正解は6インチ」
「へぇ〜」
意外な答えにへソンが、驚いて目を丸くする。
「これは地球だけじゃなく、あらゆるものに対して当てはまるんだ 」
「エリク、意味わかんないよ? 」
ヘソンが首を傾げる
「例えば、ヘソンのウエストはこれくらい」
帯をヘソンの腰に回し、エリクが長さを図る
「この長さプラス1ヤードする、これとヘソンのウエストとの間にできる、隙間も6インチ 」
「へぇ〜、すごい 」
ヘソンがきらきらと、目を輝かせ、エリクを見つめる。
「だろ、宇宙にできる隙間と、ヘソンとの間にできる隙間が、一緒ってことだ」
「うん」
『エリクはやっぱり、宇宙人かも知れない』
壮大な宇宙と、自分の細いウエストを比較されたヘソンが、
そんな、突拍子もないことを思い、
小さな子供のような、笑顔を浮かべる。
「でもまぁ、俺としては、ヘソンとの隙間は、0インチがいいんだけど 」
そう言って、エリクがヘソンの腰を引き寄せ、
0インチの隙間もないくらい、ぎゅっ〜と抱きしめた。
途端に、ヘソンに両手で胸を押し返され、どーんと、思いっきり
宇宙の果てへと、突き飛ばされた ・・・・・・
「宇宙へ帰れ〜ばぼエリク」
ノーマン・マルコム『ウィトゲンシュタイン』参考資料
http://homepage1.nifty.com/namakemono/life2/080906.html
2009/7/10