† sin1 (短篇小説)
□この世の終りに
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「エリク、明日地球が滅びるとしたら、最後の晩餐に、何食べたい? 」
キッチンで料理をしていたヘソンが、お玉を片手に、
ソファーに座っている、俺のところにやってきて、唐突に聞いた。
また、どこかで余計なことを、聞いてきたな
と、思いながらも
「最後の晩餐?」
と、聞き返す
「そう 」
ヘソンが大きく頷く
「それは、もちろんヘソン 」
ヘソンの腰を抱き寄せ、そう答えると、お玉で頭をポカッと叩かれる
「真面目に答えろよ 」
真面目に答えたのに・・・・
「ヘソンは?」
「俺はね、オンマの作ってくれる
キムチチゲ、トッポギ、サムゲタン 、チヂミ・・・・・・」
食いしん坊のヘソンは、一つに絞りきれないらしい、次から次に出てくる
「ヘソン、一つだけだよ 」
「じゃあ、オンマのキムチチゲ 」
そう言って、子供のように笑う
「お袋の味だな 」
ヘソンの口から出てきたのは、すべてオンマの作るものばかり
「うん、エリクは? 」
「何がいいかな」
考え込んでいると、ヘソンが興味津々な眼差しで、見つめている
「やっぱり、ヘソン以外思いつかない 」
「俺は、食い物じゃないよ 」
ヘソンが、唇を小さく尖らせる。
ソファーから立ち上がり、尖らせたヘソンの唇に、
ちょんと、啄むようにキスをすると
「いきなりキスするな〜」
そう言って、真っ赤な顔で、手に持っていたお玉を振り回す
いつまでたっても、不意打ちのキスに、慣れないヘソン
可愛いよなぁ
ヘソンを引き寄せ、ジタバタするヘソンの手から、
お玉を取り上げると、テーブルの上に置いた。
「ってか、明日地球が滅びるってのに、メシとか悠長に食えないよ、
それより、ずっとヘソンを抱いていたい」
ヘソンを緩やかに、抱きしめる
「質問の答えになってないよ、食い物で、答えろよ」
腕の中でヘソンが、ボソッと言う
「それじゃ、ヘソンの作ったサンドイッチ」
「サンドイッチ?」
「ヘソンが、日本で作ったサンドイッチと同じやつ 」
「あっというまに、平らげたよな
あんときは、ビックリした」
ふと思いついたそれは、
ヘソンが日本で作ったサンドイッチで、
ものの数秒で、俺が全部食べ
ヘソンが、あっけにとられていた。
「よっぽど、お腹空いてたんだな」
ヘソンが思い出して、クスクスと笑う
「いいよ、作ってやるよ 」
ヘソンが背中に両手を回し、ボンボンとやさしく叩く
「じゃあ、それを最後の晩餐にするよ」
あの時は、誰にも取られないように、
急いで食べたから、味とかわからなかった
最後の晩餐は、ゆっくり味わって、食べよう。
「その後で、俺をやるよ 」
腕の中から見上げた、ヘソンが言う
「えっ、はぁっ?」
聞き間違いか?
「ヘソン、何て言った?」
驚いて聞き返す俺に、ヘソンがふわりとキスをした。
「最後の最後の晩餐に、俺をやるよ、好きなだけ食えよ」
ヘソンが、花のように綺麗な笑顔を浮かべる
「すっげえ嬉しいかも」
ヘソンを、きつく抱きしめる。
「エリク〜苦しいよ〜」
地球が、明日滅びるとしたら、最後の晩餐は?
『ヘソンの作ったサンドイッチ』
『それから、可愛いヘソン』
ヘソンを抱いて、この世の終りを待とう
幸せな、幸せな最後だ
ヘソンと一つになって、この世を終われたなら
思い残すことは、何もない
2009年08月19日(Wed)