† sin1 (短篇小説)
□マリア (Stilla Maris )
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今日のオフは、ずっとマンションにいる。
と、言っていたはずのヘソンが、
インターホンを、何回鳴らしても、出てこない。
「おかしいな 」
不安になり、合い鍵を使って、慌てて中へ入る。
E「へソン」
名前を呼んでみるが、返事がない。
リビングを、通り抜け、
隣の部屋のドアを開けた途端、
『しぃっ〜』
人差し指を唇に当て、ヘソンが言った。
俺を捉えた、ヘソンの視線はすぐに、
目の前のムリに戻される。
眠ってしまったムリの、頭を撫で、
愛おしそうに、頬ずりをしている。
ヘソンのその表情に、思わず見惚れる。
いつもとどこか違う、可愛いけど、
それだけじゃない。
小さなもの、弱気ものにだけ向けられる、
慈愛に満ちた、綺麗で優しい表情だった。
その場に立ち尽くして、ヘソンを見つめていた。
H「エリク、見て可愛いよ」
ヘソンが小さな声で言って、俺を手招きする。
E「可愛いな」
そう言う俺の視線は、ムリではなく、
ヘソンに向けられたまま。
H「エリク?ちゃんと見て」
ヘソンは、ムリの顔が見やすいように、体をずらす。
E「可愛いよ」
ヘソンが・・・・
H「エリク、どうしたんだよ?」
ヘソンが、訝しげな表情で俺を見る。
座り込んだままのヘソンを、立ち上がらせ、抱きしめた。
H「エリク?」
腕の中から、俺を見上げるヘソンの表情 は、
いつもと変わりなく、可愛くて、綺麗。
聖母マリアにも似た、あの表情は、ムリ限定か。
見上げるヘソンに、キスをする。
潤んだ瞳で、俺だけを見つめる。
マリアじゃなくてもいいか、
この表情は、俺限定だから…
2009/01/10