Novel

□Be in riquor
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「あんたはいいよね」

 と、そう言った昔のクラスメイトの目が消えないのだ。
 きっと努力もせずに今の生活を手に入れたように彼女には見えていたのだろう。本当はそんなことはなくて、自分なりに努力をしてきたつもりだ。その努力も彼女からすれば努力とも言えないほどの労力なのかもしれないけど。結局は主観なのだ。比較の仕様はない。それでも、努力しただけ報われてきた、そのことがどれだけ幸運か、さすがにこの年になれば分かる。
 何の言いようもなく、曖昧に笑って呷った酒は、透き通った琥珀色で。いっそ酔ってしまいたかったのに、喉をか、と灼けつくような感覚が通り過ぎるばかりで、一向に酔える気配がなかった。
 大ぶりで分厚いガラスと氷の隙間に残ったそれが、ゆっくりとマーブル模様をつくって薄まっていく。
(こんな風に薄めてしまえればいいのに)
 自分が世界にとって重要な存在であると無邪気に信じていた、あの頃。
 社会に放り出され、図工や美術で賞をもらったりとか、徒競走で一等を取ることもなくなって、初めて気が付いてしまうのだ。自分が世界にとって別段必要でもないことに。
(あの、目も)
 カチカチと氷が鳴った。グラスの中のそれはもう水と区別がつかない程になっていた。滴を舐めたら少しだけ苦かった。






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