Novel
□Othello
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今更だが、私の上官はどうかしていると思う。
Othello
「今更だな」
本当に書面を理解しているのか疑わしい程のスピードでサインをしていく我が上官殿は、今日も小憎たらしい程隙がない。
規則通り一分の崩れもなくダークブルーの軍服を着込み、磨き込まれた革靴には曇り一つないし、爪の先まで綺麗に整えられている。嫌味なほど完璧な上官。
……見た目だけならば。
「どうかしていなければできんだろう」
こんな仕事は。
分かり切ったことを言うな、と言わんばかりの口調。
「まあ、そうですね」
レーテ戦線総司令部情報室長。それがこの上官、レーヴェ・シュヴァルツ中佐の肩書きだ。手っ取り早く言うなら、この戦争に関する情報を一手に握っている人間、ということになる。
ちなみに私はその副官で階級は大尉。名前はシュピネ・ヴァイス。白、という意味だ。なので、『オセロ』の白い方などと言われている。黒い方は勿論上官殿。シュヴァルツ、というのは黒を表すので。はっきり言って甚だ不本意だ。
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