Novel

□御簾
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『くらべこし振り分け髪も肩すぎぬ 君ならずして誰かあぐべき』という歌があったけれど、君はいったい誰のためにその髪を結うのだろうね。

 御簾の向こうで男はそう言って微笑して。

 少女は、その時初めて、その男が怖いと思ったのだ。





御簾





 あれからもう一年が経った。

 男は左近衛府の少将から中将に昇進し、来年からは蔵人頭を兼任するのだと女房から聞いた。けれど、少女にとって少将は少将で、男も「少将様」と呼び続ける少女を咎めることはなかった。
 相変わらず男は屋敷を訪ねて来る度に少女を訪ねては一頻り話をして帰っていく。
 男の話は面白かった。様々な行事の様子や、季節の移り変わる様子、ちょっとした失敗談を面白おかしく話してくれたので、退屈した事など一度もなかった。

 けれど、それも今日限りのことだ。
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