Novel

□Semillia
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 この世界に空はなかった。



 一六年前に始まった大戦はまたたく間に世界中に広がり、飛び交う砲弾とミサイルの嵐が撒き上げた粉塵は空を覆い、分厚い雲を形成している。重く垂れこめる緞帳のような雲は晴れる気配もなく、もはや空は望めない。灰色の、空。
 零下四〇度。放射線に汚染された大地は凍て付き、生命を芽吹かせることはない。嘗ての十分の一にも満たない五億人ほどの人々は、主にシティと呼ばれる巨大な建物型の都市に住んでいた。
 大戦は四年前に各シティ間で休戦協定が結ばれ、一応の終止符が打たれた。しかし、未だ小規模な戦闘は各地で続いているし、いつ枯渇するか判らないエネルギー資源を巡って、各シティが思惑を探り合っているのもまた事実だ。今はまだどのシティも大規模な戦争行為を行う余力はないが、シティの復興に掛ける予算と同じ位の金が軍備にも使われているという話も聞く。
 

 繰り返すのは人の性だろうか。大戦を忘れたわけではないだろうに、何故、再び戦おうとするのだろうか。
 

 自分は何をしたいのだろう。何を求めているのだろう。


 分からない。分からないことだらけだ。
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