Novel

□手跡
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 ある日、もう何年も帰っていない故郷から私に届けられた書簡。その手跡を見たとき私の胸に去来したのがなんだったのか、今でも良く分からない。



 手跡



「そういえば、先程貴方宛てに書簡が届いていましたよ」

 そう、私の上司にあたる人が言ったのは、冬の少し暖かな日のことだった。

「私に、ですか?」

 足りなくなってきた墨をすっていた私は間の抜けた声を出してしまった。

 没落した実家のために都の宮城で、女史として働いている私のもとに真っ当な書簡が届いたことはついぞない。大抵は金の催促の紙切れ一枚。昔は都でも名の知れた名家だったらしいが、情けないことだ。

 私自身は生まれたときから没落した家しか知らないから、特に何の感慨もないのだが。

 ともかくも、そういった事情を知っている彼が、わざわざ話を出してくるということは、いつものそれではないようだ。


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