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◇13年バレンタイン話 【その4】◇




※ツナ総受け・10年後綱吉が過去を回想して頭を抱えるバレンタイン話です。ラスト!
1.2.3はmainに収納済みです




2/14、ヴァレンタインデー当日。
綱吉は、家の前に積み上げられた段ボールを見て絶叫することとなった。
むせかえるようなチョコレートの甘い匂い。
これはトラウマになる。ヴァレンタインなんて碌な事が無い日なんだ。



昨日の夜、綱吉が作った不格好なトリュフは、京子やハルなどといった女性陣に配られることで決した。
所謂世間一般で流行りの逆チョコというわけだ。
その中には日頃から世話になっている母親の奈々も含まれているわけなのだが、綱吉は最後まで気恥ずかしがっていた。
だが、基本的に女性に対してフェミニストであり、さらに奈々に対しては格別の対応をしているリボーンからの
有難いビンタを食らって奈々宛のラッピングも完成している。
当日にどうやって渡そうかとうずうずしながら、13日の夜は更けていった。

そして当日、チョコレートを配るどころではない朝が訪れることとなる。
朝からやたらと騒がしい雑音が響いていて、綱吉はその喧しい音で目が覚めた。
時刻はまだ、季節柄か薄暗く日は昇り切っていない。
だというのに、まるで日中の繁華街の如く喧騒が聞こえてくる。

しかも、かなりよく知った声ばかりであった。

「てめぇ!!10代目にチョコレートをお渡しするのはオレだ!!」

「クフフ、何言ってるんですか。大体君にチョコレートの何が判るんですか。綱吉君の好みにあったチョコレートはこれしか有り得ないんですよ」

「君が持ってくるチョコレートなんてパイナップル漬けなんじゃないの。邪道だよ」

威勢よく声を張り上げ、周りに牙を剥く。
獄寺隼人は早朝からすでに通常運転と呼ばれる平時のテンションを持っていた。
彼が後ろに従えて来たのは、母国であるイタリアの某有名メーカーのチョコレートである。
その規模、トラック5台分にも及ぶ。これだから金持ちは、と綱吉の脳裏に過ぎった。
イケメンな上に頭も良く、当然ながら運動神経もいい。
さらに厄介なことに実家はお金持ちなのだ。
彼はその実家の金を惜しみなく注ぎ、こうして綱吉に捧げるチョコレートを用意してきたのだろう。
その純然たる好意も、綱吉にしてみればただの嫌がらせにしか見えない。

獄寺の用意してきたチョコレートに対して、「ハッ」と嘲笑ってみせたのは骸。
彼も獄寺と比肩しても見劣ることのない無駄にイケメンな変態である。
頭上から生えた房を揺らしつつ、骸は自慢の一品を掲げた。
シンプルな白い箱ではあるが、多分高級チョコだ。
彼は見かけに対して好物がチョコレートという、随分と可愛らしい一面を持っている。
つまりは甘党なのだ。そしてやたらと拘りを押し付けてくるタイプ。
ブランド志向もあるらしく、チョコレートと言えば明治や森永の板チョコしか思い浮かばない綱吉にとって、厄介な相手だ。

そして最後に、明らかに不機嫌を張り付けた表情で佇むのは雲雀である。
頭の上には相変わらず愛くるしいキイロイトリ、ではなくヒバードがふくふくと丸まっていた。
雲雀の背後に控えるのは御存知、並盛中学風紀委員の皆さま。
ご丁寧に全員段ボール箱を抱えていて、中身は窺い知れないが多分この流れから言えばチョコレートだろう。
雲雀は別に甘党であるという情報は無いし、ブランドに対しても拘りはなさそうだ。
多分そこら中から徴収、もとい買いあさってきたチョコレートを目一杯持ってきたんだと考えた。

まさに一触即発。
綱吉は二階の窓から慌てて身を離した。
自分が起きていて、様子を窺っているなんて知れたら一気に進軍してくるだろう。

「り、リボーン!!」

綱吉はまず、自分の部屋の同居人に声を掛けた。
これはもはや、某国民的アニメの少年がネコ型ロボットに縋る現象と同じである。
寝ている彼を起こすことは、死の文字がちらつくほどに命知らずな行動なのだが、今はそれどころではない。
リボーンも怖いが、今下でがやがやと騒いでいる友人たちも怖い。

「起きてよリボーン!!家の外がっ!!」

ハンモックの上で寝息を立てている赤ん坊に声を掛ける。
本当ならば体を揺すって叩き起こしたい所なのだが、彼の周りにはどんなトラップが仕掛けられているかわからない。

「うるせえ!!」

寝起きが最悪らしい家庭教師様は、一喝と共にズガンと銃をぶっ放す。
綱吉の右頬すれすれを横切ったそれは、しっかりと壁にめり込んでいた。
一応は加減していたのだろう。していなければ壁を突き破っていたに違いないはずだ。

「だっ、だってリボーン、外!!朝っぱらから獄寺君とか骸とか雲雀さんが!!」

「ちっ、それがどーした。おめーの取り巻きだろうが」

「取り巻きじゃないよ!!友達と先輩!!」

まだそんなこと言ってやがるのか、と諦めの悪い生徒を見ながらリボーンは体を起こした。
折角の安眠を邪魔されたせいで、寝起きは最悪ではあるが、どうやら面白いことになっているらしい。
朝っぱらから三人が家の前に詰め駆けてきているらしい。
当然だ、なんたって焚きつけたのは自分なのだから。

「獄寺が毎朝家の前うろうろしてるのは今更だろーが」

「ちょっ…怖いこといわないでよ!!それに、今日は獄寺君だけじゃないんだよ!何かトラックとか一杯着てるし!!」

焦る綱吉の言葉を後目に、リボーンは軽い足取りで窓際に立つ。
覗きこめば確かに数台のトラックに、黒い学ランの集団。
玄関先では三人の男が声を張り上げて争っている。綱吉にとっては地獄絵図だ。
ご近所の評判が著しく低下して久しい我が家ではあるが、さらなる拍車が掛かることだろう。

「どうしよう、朝っぱらから絶対近所迷惑だし、母さんだって起きちゃうよ!」

「そうだな、ママンの睡眠まで妨害されるのはオレとしても本意じゃねえ」

ちらりとリボーンを覗き見て、綱吉はぐっと拳を握る。
リボーンはフェミニストだ。多分母親のためならば動いてくれるはず。

「だ、だよな!じゃあリボーンなんとか…」

「おめーが言って止めてこい!」

がらっと窓を開けると、リボーンは綱吉を放り投げた。
躊躇の無い動作に一瞬自分に何が起きたのか判らなくなる。

「ちょっ…わああああ」

二階から真っ逆さまに落ちて行く。
綱吉の絶叫が届いたのだろう。
玄関先で騒いでいた獄寺たちが一斉に顔を上げた。

「じゅっ10代目ぇぇ!?」

「綱吉君!?」

「綱吉…!」

三人はそれぞれ身構え、落ちてくる綱吉を受け止めようと乗り出した。
それに対して本気で恐怖する綱吉。
だが、残念なことにグローブを持っていない。つまりは、回避する方法が無いということだ。
ひぃぃと情けない声を上げながら、落下していく自分の行く末を案じた。

「つっなよしクーン!!」

がっしりと襟首を掴まれて、思わず喉が絞まった。
情けないうめき声を漏らしながら、体が未だに地面とぶつかることなく浮いていることに気づく。
一体何が、と喉を手で庇いつつ顔を上げる。
にこりと満面の笑みを浮かべた青年。

「びゃ…白蘭!?」

「グッドタイミングだよね、僕って♪」

パタパタと忙しなく小さな羽が動いている。
空からやってきたらしい白蘭は、落下する綱吉を掴んで拾い上げた。
さすがに襟首をずっと掴んだままであるのは可哀そうだと気付いたのか、そのまま屋根の上へ運んでやる。

「あ…ありがとう…」

「ドーイタシマシテ」

くすりと薄い笑みを浮かべながら、白蘭はじっと綱吉を見つめている。
未だにパジャマのままで、しかも寝ぐせのついた髪。
目の前の白蘭は上から下まで相変わらず真っ白な出で立ちだが、綺麗である。
何だか居た堪れない気持ちが沸いてきて、つい顔を背けた。

「な、何で白蘭まで朝っぱらから…」

彼は今のところユニの元に身を寄せている筈だ。
本来はチェデフ預かりの立場であるらしいが、大空のアルコバレーノに貢献した功績を称えられて自由の身となった。
遠く、海を隔てたイタリアにいる筈の彼が、どうして日本の綱吉の元にきたのか。
しかも早朝、ようやく空が白みだした頃である。

「んー、今日ヴァレンタインでしょ?だから綱吉クンに」

綱吉の疑問に対して、白蘭は殊更嬉しそうに答えた。
ごそごそと白のジャケットを漁りながら、何かを取りだす。
綱吉が目を点にして、覗きこもうとした。

「待ちなさい、マシマロ男!!」

ふわりと黒い霧が目の前に立ち込めたかと思うと、身体を思いっきり引っ張られる。
ただでさえ屋根の上で足場が悪いというのに、遠慮の無い衝撃に綱吉は踏鞴を踏んで目の前の何かに縋りついた。

「ぶはっ、骸何するんだよ!」

「そーだよ、いきなり無粋な男だね」

顔を上げたそこに立っていたのは、さっきまで下にいたはずの骸である。
多分、霧の幻覚やらなんやらで移動してきたのだろう。
物騒なことに槍を構えて白蘭の喉元を捉えている。

「てめぇ、後から来た癖に白々しいんだよ!!」

這い上がってきたのか獄寺まで白蘭の後ろに立っていて、じりじりと距離を詰めてきた。
ただでさえ狭い我が家の、屋根の上なんてもっと狭い。
肩を竦めながらも、依然として余裕の表情を見せろ白蘭。
立ち込める怒気はもう一つあって、それが玄関先で睨みあげている雲雀であると気付いて綱吉は身を竦めた。
骸も白蘭も怖いのだが、何故か雲雀は格別に怖い。
言うなればリボーンに抱く恐怖に尤も近しいのだ。

「君、何しにきたわけ?」

「勿論、愛しの綱吉クンにチョコレートを渡しに♪」


にこにこと悪びれなく答える白蘭。
それに対して、綱吉は絶叫する。

「はあああああ?な、何それ、オレに!?」

「そ。貰ってくれるよね、綱吉クン」

「え…あ、えっと…」

どうしよう。
綱吉の頭の中は今にもパンクしそうになる。
なんだかんだ言って、やっぱりヴァレンタインにチョコレートを貰うのは嬉しい。
それが自分のためだけに用意されたものならば、格別に。

ただし、男からだ。

今の綱吉の頭の思考の中には、それが綺麗さっぱり消えていたのだが。

「ちょっと待てえぇえええ!!オレだって10代目に!!貴方のためにトラック5台分ご用意しました!!」

「そうですよ!!綱吉君、僕は君のためにハリウッドセレブ御用達の究極のトリュフをですね…!」

「待ちなよ綱吉!僕が用意したチョコレート以外を受けとるなんて、どういうつもりだい」

白蘭からの言葉に絆されかけていたが、一気に現実へ引っ張り戻された。
そう、今の綱吉は四面楚歌なのだ。

「ちょっ…いや、その、待って…」

嬉しいけれど、何かおかしい。
じりじりと差し迫ってくる彼らは、どう見ても常軌を脱している。
ぺたりと壁に体が付いて、後ろが自分の部屋であることに気づく。

別に全員のものを受け取れば、それで丸く収まるのではないのか。
大空体質の綱吉は、基本的に平等であり博愛精神を持ち合わせている。
全部食べきれるかは別として、全員のものは有難く貰おうと考えた。

「最初に受け取ったやつが、おめーの本命だ、て教えてやったんだぞ」

きゃるん、とすっかり目の醒めたらしい家庭教師が窓から顔を出してきた。
余計過ぎる一言に、綱吉はいつになく真剣な顔でリボーンを睨む。

「ちょっとおおおお!!なんでそんな変なこと吹きこんでるんだよおおお!!!」

「全員にいい顔してたら、碌な大人になれねえからな」

「愛人4人いるリボーンには言われたくないよ!!」

御尤もな言葉であるが、リボーンは全くもって聞いていない。
ハッピーヴァレンタインの一言と共に、階下へ朝食を取りに行ってしまった。




「やっぱり原因はお前じゃないか!!リボーン!!」

「そうだったか?」

けろりとした表情で答えるリボーンの目は、無駄にキラキラと輝いていた。
無垢な子供そのものの表情で答える。リボーンには一切の悪気はない。
あのヴァレンタイン以降、綱吉は2月14日にチョコレートを口にしないことにしている。
未だにリボーンの言葉は有効なのだ。

綱吉宛に送られてくる数々のチョコレートも手にすることはなく、全て施設に寄付している。
ハルや京子、クロームやユニなど女性陣からの有難いチョコレートたちもプレゼントされるが全て14日
以外の日に受け取っている。
ああ、なんでむさ苦しい男たちからのチョコレートのせいで、14日が楽しめなくなっているのだろう。

遠い目をしながら、あの日の結末を思う。

確か、朝から夜まで追いかけっこをした。
4人からスタートして、続々と集まってくる参加者たち。
確かイタリアからザンザスまでやってきて、真・六弔花も援軍でやってきて。

お陰で少しの間チョコレートを見るのも嫌になった気がする。

愛されている証拠とはいえ、やっぱり男から貰っても嬉しくない。


「別にチョコレートに籠めなくてもいいのになぁ」


ぽろりと出た本音が、彼らに伝わるのはいつのことになるのか。
古今東西、チョコレートに拘っているのは日本だけであろう。
海外では花を送ったり、カードを送ったり。
受け取れないと頑なに主張するチョコレート以外で来てくれれば、案外ころりといってしまうかもしれないのに。

家庭教師はほくそ笑み、そうだな、と小さく相槌を打った。



-End-






 
 

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