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□バイオハザードRE:4
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第13回「灰色の皮を着た悪魔」
(2023/5/20)
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サラザールよってストロベリージャムめいて潰されたレオンは、祭壇突入直前の大扉の前で復活していた。
扉に手をかけ、苦虫を噛み潰したような顔で逡巡している。
「Fuckin' monster(化け物め)……」
レオンは忌々しげに呟くと、恐怖を振り払うように勢い良く扉を押し開けた。
今度は回避優先の立ち回りで生き延びようという考えである。
だが挑戦する度に何度も丸呑みにされ、心が折れたレオンは武器商人の所まで引き返していた。
「お早いお帰りだな、ストレンジャー!」
ニヤリと笑う武器商人に死んだ目で一瞥をくれると、レオンはアタッシュケース内の宝物類をカウンターにぶちまけた。
宝石の嵌め込まれた腕輪や置時計などがゴロゴロと転がり出て乱雑に積み上がる。
「コイツと引き換えに、マグナムの威力を上げてくれ」
「ヒュー! ついに決心がついたかストレンジャー!」
揉み手の武器商人が鑑定を始め、レオンはそれを不機嫌そうに腕組みして見つめる。
「なぁストレンジャー、ここでお宝は全部売っていくよな?」
「いや、王冠は残してくれ。それがあれば、いつでも好きなタイミングでロケランが買えるからな……」
赤・黄・緑・青・紫の宝石が嵌まった王冠は、それだけで10万PTASの価値があった。
ロケランは8万PTAS(※前世では3万PTASだった)するので、王冠でやっとお釣りが来る計算である。
「せっかくだし、あの面汚しにロケランを撃ち込んだらどうだ? さぞスッキリすると思うぜ!」
「それは最終手段として考えておくよ」
レオンは威力21に改造されたブロークンバタフライを受け取ると、再び祭壇へ向かった。
サラザールの酸吐きや齧り付きを躱しながらマインを撃ち込み、ひたすら好機を待つ。
そしてようやく本体爆破に成功すると、蔓植物のように壁にへばりついていた巨体がズルズルと地面に滑り落ちてきた。
「おのれぇええ!!」
剥き出しになったサラザールが、地団駄を踏む子供めいて悔しがる。
レオンはボルトスロアーを仕舞うと、ここぞとばかりにブロークンバタフライを構えた。
「お前には勿体無いかもな」
容赦無く脳天に2発撃ち込み、仕上げにナイフで寄生体の目玉を抉る。
これが効いたかどうかは分からないが、その後サラザールが再び動き出してからも戦闘は順調に進んでいった。
エイムが酷すぎてマインを使い果たしたものの、ボルトアクションライフルをスコープ無しで撃つ戦法によりサラザールを再度叩き落とす事に成功。
追い討ちをかけようと焦ったレオンは武器選びに動揺した挙げ句に誤って強化手榴弾を投げてしまったが、その爆風がサラザールへのトドメとなった。
「サドラー様ぁ……」
サラザールの巨体が急速に萎れていくのと同時に、船着き場へと繋がる跳ね橋が降りる。
なんだか締まらないラストシーンだったが、小物のサラザールにはお似合いの最期であろう。
「手榴弾が効くのは盲点だったな……」
レオンは倒した実感が湧かないまま、しばらくサラザールの遺体を眺めていた。
すると膨張した肉体が縮んだ拍子に、内部に取り込まれていた何かが転がってきた。
見れば緻密な真鍮細工が施されたアンティーク風の缶で、蓋部分に紫と黄色の宝石が嵌め込まれている。
「……貰えるものは貰っておくか」
中身は気味が悪い謎の紫色のクリームだったが、レオンはそれを拾い上げると船着き場へ向かったのだった。
道中にはサラザール家の執事の手記が置いてあり、ラモン・サラザールの父親であるディエゴという人物への謝罪の言葉が綴られていた。
手記によれば、サラザールは陰口を叩いた使用人に硫酸をかけるような歪んだ性格をしており、執事はその性格を矯正しきれなかった事を悔やんでいたようである。
(そういえば、俺のことを「父親に似てるから腹が立つ」とか抜かしてたな……)
戦闘中にうんざりするほど話しかけてきたサラザールの事を思い出し、レオンは嫌そうな顔で手記を置いた。
船着き場には丁度良く誰かのボートがあり、レオンは自然と上機嫌になった。
「いいぞ、泳がなくて済みそうだ」
しかしボートには鍵が無く、エンジンをかけることが出来ない。
困っているところに現れたのが鍵の所有者……エイダだった。
レオンはエイダの運転するボートで孤島に到着したものの、岩だらけの岸辺で寂しく置き去りにされたのだった。
「……泣けるぜ」
レオンの声に応えるのは、荒れた波の音だけである。
孤島では厳しい監視の目が張り巡らされており、戦闘員も多く配置されていた。
侵入経路を探してレオンが脇道の洞窟に入ると、そこには武器商人が店を構えていた。
「よう、ストレンジャー!」
「……アンタの顔を見ると安心するよ」
武器商人の挨拶に、レオンも会釈を返す。
それからサラザールの落とした缶の存在を思い出し、懐から出してカウンターに置いた。
「査定を頼む」
すると武器商人は、珍しく怪訝な顔をした。
蓋を開け、露骨に顔をしかめる。
「あ……? こりゃあのクソガキの口紅じゃねぇか!」
そう、紫色のクリームの正体はサラザールが愛用していた「暗血の口紅」だったのである。
レオンは武器商人とは違う意味で眉間にシワを寄せた。
「……まさか買取拒否か?」
すると武器商人は問いかけに対して首を横に振った。
「正直触りたくねぇが、俺達は商人だ。商売に私情は挟まねぇ……24,000PTASでどうだ!!」
驚きの高値に、レオンは耳を疑った。
「アイツの使用済み口紅にそんな価値があるのか!? 後から金を返せと言われても困るぞ」
「俺達に二言はねぇ! あと、どんなブツも好事家はいる!!」
武器商人は力強く言い切ると、金貨の詰まった袋を持ち上げて見せた。
「さあどうする、ストレンジャー?」
「さすがのプロ意識だな……恐れ入ったよ」
レオンは暗血の口紅と引き換えに金貨を受け取ると、その金でショットガンの威力改造を依頼したのだった。
埠頭での戦いは前世と違って赤外線センサー付きのタレットが増えていたほか、ガトリング男がリストラされて「連弩」の猪頭戦闘員が採用されていた。
「いやに前時代的だな」
珍しく前世より弱体化した敵に、驚きを隠せないレオン。
とはいえ連射武器は怖いので、結局テリトリー外に出ると敵が初期配置位置に戻るのを利用したチキン戦法で敵を殲滅していく。
なんとか死なずにその場を乗り切ったレオンは、三連続ステルスキルを決めたり、金属の盾に苦戦したりしながらより奥へと足を進めた。
するとレオンの前に、懐かしさと忌まわしさを同時に感じる戦闘員が立ち塞がった。
──ロケラン戦闘員の登場である。
「8万PTASの弾をなんであんなに連発できるんだよ……」
レオンは自分と教団の財力差に涙が出そうだった。
しかも隣にはボウガン戦闘員がおり、レオンがバリケードから頭を出すとすかさず矢を撃ってくる。
砲弾と矢を回避しながらロケラン戦闘員の頭を撃ち抜いたレオンは、続けてボウガン戦闘員の頭部をスコープの中央に捉えて引き金を絞った。
(せめて一発で倒れてくれよ……)
天に祈るレオンだったが、ボウガン戦闘員の頭は想像以上の勢いで弾け飛び、そこから鞭のようにしなる触手が力強く生えてきた。
「クソッ! ……だと思ったよ」
諦めの境地でもう一発ライフルを撃ったレオンは、あっという間に無くなっていくライフル弾に不安を感じながら先に進んだのだった。
(※英語だと多分「Damn! I knew it.」と言ってた)
燃える男が飛び出してくる懐かしいドッキリを味わいながら施設の奥へとやってきたレオンは、アシュリーが監禁されている部屋を解錠するため、セキュリティレベル3のカードキーを入手しなければならなくなった。
そのためには解剖室でカードキーを入手し、さらに冷凍室と培養室でセキュリティレベルを書き換える必要がある。
だがレオンの足取りは重かった。
前世ではカードキー入手直後に、灰色の化物──リヘナラドールが襲いかかってきたからである。
暗闇で赤く光る目、凶悪な牙、そして異様に伸びる両手……全てがトラウマだった。
しかも驚異的な再生能力を持ち、体内の寄生体をサーモスコープで撃ち抜くまではなかなか倒す事ができない。
そして現在、解剖室へ向かう廊下を歩いているレオンの耳には既に、リヘナラの独特な鼻息が聞こえてきていた。
(鼻詰まりは相変わらずだな……)
首筋に噛みつかれた記憶が蘇り、身震いするレオン。
レオンは忍び足で歩いていたが、数メートル先で恐怖の余り息が止まった。
突然視界の端からリヘナラドールが現れたのだ。
リヘナラはレオンに気づかず走り去ったものの、耐えられなくなったレオンは武器商人のいる厨房まで引き返していた。
「……心が落ち着くまでここにいていいか?」
「ハエとネズミがちょこまかしてて生肉が異臭を放ってるが、アンタが良けりゃ好きにしなストレンジャー」
厨房には豚らしき肉が吊るされており、大量のハエが集っていた。
レオンは悪臭が酷すぎて深呼吸できなかったものの、武器商人と雑談してなんとか平常心を取り戻す事ができた。
「ヘマして死ぬなよ! ヒッヒッ」
武器商人に見送られながら、レオンは解剖室へ向かったのだった。
(※見送り台詞は本当に言ってくれる)
幸いリヘナラが襲ってきたのは、カードキーを取ってからだった。
しかし電力供給が不安定で、レオンはブレーカーを切り替えながら進む事になった。
それはすなわち狭い廊下を行ったり来たりして、リヘナラと何度もすれ違うという事である。
しかも冷凍室にいたリヘナラも、レオンを追ってきていた。
「ファンが多くて困るな……」
レオンは仕方なく、ショットガンでリヘナラの足を吹っ飛ばして進む事にした。
足が無くても背筋でジャンプしてくるため相変わらず危険だが、撃たないよりはマシである。
「クソッ、そろそろ弾が尽きるぞ!」
貴重なショットガンの弾が通行税のように減り、頭を抱えるレオン。
しかも前世ではサーモスコープは冷凍室にあったはずだが、今回は見当たらなかった。
なんと置き場所が培養室に変わっていたのだ。
しかも培養室では機械の蓋を取るためにレンチが必要になったのだが、研究員の手記によればどこかのリヘナラが体内に取り込んだという。
実はサーモスコープを使えば、培養槽に入っている4体のリヘナラの内の1体が正解だとわかるのだが、レオンはそれに気づかず来た道を戻り始めた。
廊下にいるリヘナラが正解だと思ってしまったのだ。
加えて、この時装弾数が多いという理由でアサルトライフルを持参していたのだが、レオンは連射速度と銃口の反動を甘く見ていた。
そして寄生体と関係ない箇所を蜂の巣にし続けた結果、2体目のリヘナラを倒している途中で弾切れになってしまった。
「しまった!」
ショットガンも残り2発で、絶体絶命のピンチである。
だが最後の弾を撃ち込んだ瞬間、リヘナラの上半身が爆発したように消し飛んだ。
銃の破壊力がリヘナラの再生能力を上回ったのだ。
「レンチは……?」
血溜まりの中に浮かぶリヘナラの下半身に歩み寄るレオンだが、そこにはサファイアだけが落ちていた。
「マジかよ……」
どろりとした血で染まった宝石を拾い上げたレオンは、困り果てて時を巻き戻す事にしたのだった……。
それからレオンはアサルトライフルを武器庫送りにし、手に馴染んだボルトアクションライフルを取り出した。
連射は効かないものの、無駄弾を撃つよりはマシである。
また、冷凍室でカードキーを書き換える直前にギミックを解く事で、レオンはリヘナラを倒さずにLE5(サブマシンガン)を入手した。
培養室近辺の戦闘員を相手するのに丁度良く、さらにサーモスコープも装着可能という代物である。
(今ならツイてる気がするぞ……!)
やっと調子が出てきたレオンはサーモスコープでレンチ持ちのリヘナラを見つけると、寄生体ごと培養槽を破壊した。
ガラスの破片が派手に飛び散り、更なる寄生体を隠し持ったリヘナラがレオンに這い寄る。
その動きは、足を撃ってもなお俊敏だった。
「じゃじゃ馬め……」
だが狙いが逸れてリヘナラの頭部を吹っ飛ばしたレオンは、頭部無しの状態だとリヘナラの動きが数秒止まる事に気がついた。
「脳みそ仕事してたんだな」
そのままレオンが寄生体を撃ち、爆散するリヘナラドール。
しかし今度は息つく間も無く戦闘員が駆け付けてきた。
多勢に無勢となったレオンが強化手榴弾を培養室内に放ったところ、なんと全部の培養槽が割れて3体のリヘナラが解き放たれた。
しかも爆死した戦闘員の頭から鎌状の寄生体が生えてきてしまい、地獄のような有り様である。
「ッ……アディオス!」
どうにもならないことを悟ったレオンは、全力疾走でその場から離脱した。
そして風のように素早く監禁部屋のロックを解除すると、アシュリーにルイスの寄生体成長抑止薬を投与したのだった。
(ちなみに解剖室等で研究員の手記を読むことができるのだが、それによると通常のプラーガに寄生された人間はミミズ並みの知能になってしまうものの、研究員が開発した上位種プラーガに寄生されると知能はそのままでサドラーに心酔するようになるらしい。
そして研究員はこの上位種プラーガを無理矢理寄生させられたようなので、ルイスもそれでプラーガに寄生されたと思われる)
目覚めたアシュリーにルイスの死を告げ、二人でルイスの分まで頑張ろうと誓ったレオン。
まずはルイスの研究所でプラーガを除去しようと考えたのだが、問題は場所が全くわからないことだった。
そこでレオンが無線をかけたのは、いつも絶妙な手助けをしてくれるエイダ・ウォンであった。
エイダはレオンの「寄生体除去施設はどこにあるのか」という問いかけに対して、「教団の主要な施設は山頂の方に集まっている」という情報を教えてくれた。
「さすが、エイダ大百科だな」
レオンの微妙な誉め言葉を聞いたエイダは、放送事故を疑うような数秒の間の後に、
「光栄だわ。一つ貸しね」
と、なんともいえない表情で答えたのだった……。
(※本当に「Huh. Ada the encyclopedia」って言う)
(次回へ続く!)