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□バイオハザードRE:4
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第8回「同情するなら弾をくれ」
(2023/5/3)

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武器商人のところで一息ついたレオンは、アシュリーを連れて水の広間に舞い戻っていた。

「狙撃の基本は隠密のはずだが……火矢はよく目立つな」

クランクのあたりまで進み、向かって右奥の上階にいるボウガン邪教徒を初手で撃ち抜く。
それを皮切りにして現れ始めた増援を前に、レオンは力強くアシュリーに宣言した。

「よし、後は運頼みだ! 散開するぞ!」

「え!!?」

何言ってんだコイツという顔のアシュリーに、レオンは真面目な顔で告げる。

「歩きながら考えたんだが……誤射した原因は、俺と君が近くに居たからだと思うんだ」

「だ、だって護衛対象……」

アシュリーの言葉を遮ってレオンは喋り続ける。

「だから……なるべく助けには行くが、このハゲどもを全員ぶちのめすまで別行動だ。じゃあな、幸運を祈る!」

「あ、ちょっと待ってよ!!」

言うが否や、レオンはアシュリーを置いてけぼりにしてその辺の邪教徒と交戦し始めてしまった。

「し、信じられな……きゃーっ!?」

早速アシュリーに群がる邪教徒達の姿はレオンにも見えているはずだが、周囲の敵を蹴散らすのに忙しいのか全然助けに来る気配が無い。
さすがに連れ去られる直前には救助されたものの、それが済むとまた置き去りにされたのだった。


「さぁ、跳ね橋を下ろしたぞ! 次はいよいよ君の出番だな」

「……うん」

地下のハンドルを回収してクランクを回す事に成功したレオンが意気揚々と話しかけるが、放置されていたアシュリーの返事は素っ気ない。

「それじゃ肩車するから、あのクランクを頼む」

「いいけど……」

アシュリーは言われた通りに高所のクランクを回しに向かうが、表情は不安げである。

「……ねぇレオン、ライフルの弾は残ってるの?」

「余裕は無いが、その時はなんとかするさ。君はクランクに集中してくれ」

言いくるめられて、仕方無くクランクを回し始めるアシュリー。
だが案の定、邪教徒がぞろぞろと集まってきた。

「きゃっ、来た!」

「屈むなアシュリー! 君だけなら殴られないから、そのまま走り続けろ!」

怯えるアシュリーに檄を飛ばすレオンだが、アシュリーはへたり込んで動けない。
レオンは仕方なくボルトアクションライフルを構えると、邪教徒達を狙撃し始めた。
だが焦って誤射するような人間が百発百中で狙撃できるはずもなく、レオンは貴重なライフルの弾を何発も無駄にしてしまった。
(※狙撃を外し過ぎてレオンがセルフツッコミした時のプレイ動画

「どうにもならんな……もうハンドガンで撃つしか……」

ライフルが弾切れになり、渋々SG-09Rを取り出すレオン。
威力が高いのはレッド9の方だが、手ブレが酷すぎるので今回は封印していた。

「……正直どの弾も残り少ないが、なんとかなってくれ!!」

すると祈りが天に通じたのが、狙撃で完全な弾切れになる寸前にアシュリーがクランクを回し終えた。
水の中に沈んでいた通路が浮上し、広間からの脱出路が完成する。

「こっちだアシュリー! 寄り道するなよ!」

「待ってよレオン!」

レオンは後方にいるアシュリーの様子を確認しながら先行していく。
アシュリーには寄り道を禁じたものの、レオン自身は出口付近の壺を蹴り壊してしっかりアイテムを回収してから脱出したのであった。


広間の先は古びた噴水のある小さな庭園になっており、月明かりの下で様々な花が咲いていた。
観光で来ればそれなりに楽しめただろうが、今この場にいる人間にそんな余裕は無い。

アシュリーを肩車して反対側から扉を開けてもらい先に進むと、今度は緊急事態が勃発した。
アシュリーの体内に潜むプラーガが覚醒し、支配種の指令を受けてレオンに襲いかかってきたのだ。
アシュリーはレオンの隙を突いてコンバットナイフを奪うと、そのまま躊躇の無い動きで斬りつけてきた。
レオンは咄嗟に手で刃を握って受け止めるも、グローブが裂けて血が滲み出る。

「誤射の事は謝っただろ!?」

アシュリーにマジギレされかねない所業が多すぎて勘違いするレオンだったが、やがて彼女の発言の異常性に気がつく。

(急に子羊とか言い出したな……まさか!)

しかし時既に遅く、アシュリーは不意に正気を取り戻したものの、レオンを傷つけたショックで走り去ってしまった。
おまけに城の仕掛けが作動して柵がせり上がり、追いかけることも出来ない。

去り際にアシュリーが落としたコンバットナイフだけは回収できたものの、行方の手がかりもなくレオンは途方に暮れた。
その上ハニガンとの通信も、電波が乱れて聞こえなくなってしまう有り様である。

何もかも上手くいかないレオンは、露骨に不機嫌な様子でその先の武器商人部屋に入った。

「……大変そうだな?」

苛立ちが全身から滲み出ているレオンを見て、武器商人も思わず声をかける。

「ハッ、順調過ぎて困るくらいだ! ところで武器商人、酒は売ってないのか?」

「ダメだぜストレンジャー! それはダメだ!」

レオンの酒癖の悪さを見抜いたのか、武器商人は在庫の有無については語らずレオンを諌めた。

「勝利の美酒より旨いモンはねぇんだからよ、ここを出てからあのお嬢ちゃんと乾杯したらいいじゃねぇか」

「そのアシュリーが消えたんだが……まぁ、そうだな」

他人と会話して気が紛れたのか、レオンはどうにか冷静さを取り戻したようだった。
武器商人も雰囲気が和らいだのを察知して、荷物の山をガサゴソと漁る。

「ちょうど新商品があるんだ。コイツはアンタが生きて帰るのを助けてくれると思うぜ?」

ここぞとばかりに武器商人がカウンターに並べたのは、ボディアーマーだった。

「こんなとこ、命が幾つあっても足りねぇからな……それにもし壊れても、俺達が修理してやるぜ!」

「防御効果が永遠に保つワケじゃないのか……」

前世でのボディアーマーは一度買えば効果永続だったので、レオンは世知辛さを感じた。

「形あるものはいつかは壊れるからな! そういや、アンタのナイフも直してくれって叫んでるんじゃねぇのか?」

武器商人が、レオンの左肩に装着されているナイフケースを指差す。
言われてみれば、水の広間でアシュリー救助に酷使したせいでボロボロになっていた。

「俺はこんな刃を手で受け止めたのか……」

先程アシュリーに斬りつけられた手のひらが、ズキズキと痛む。
結局レオンはナイフを修理後、ボディアーマーも購入したのだった。


ひとまずルイスと落ち合う予定の中庭へ向かうことにしたレオンは、地図を見て軽く首を捻った。
前世の記憶によればこの周辺に聖堂と地下水路があり、特に水路では透明な虫──ノビスタドールが待ち構えているはずである。

しかし古城の地図にはその二ヶ所の記載は無く、代わりに「貯蔵庫」なる場所の存在が記されていた。

「……そんな場所あったか?」

とりあえず歩き出したレオンだが、表情は晴れない。
前世の記憶を参考にできない場所に行くのは勇気が必要だった。

ワイン貯蔵庫の入口には祭壇があり、奥からは祈祷の声が漏れ聞こえている。
引き寄せられるようにそちらへ向かうと途中の部屋に仕掛け付きの像があり、貼り紙によると「火」が必要だという。

奥でサバトを行う邪教徒達を目撃したレオンは、リーダー格の赤服邪教徒を見てあることを思い出した。

(前世では聖堂の次にガトリング砲台のサロンがあったが、あそこにも赤服がいたな……それも異様に頑丈な……)

先へ進むための鍵は、その赤服が持っていたはずである。
レオンは壁から身を乗り出すと、ライフルで赤服の邪教徒にヘッドショットを決めた。

「パーティーは終わりだ!」

弾丸が頭部を貫き、血飛沫が散る。
しかしスコープの中の赤服邪教徒は一瞬よろめいただけで倒れない。
レオンは即座に二発目を装填し、引き金に指をかけた。

だが驚異的なタフネスを誇る赤服が何か唱えた瞬間、悪意に満ちた音波がレオンの脳内をシェイクした。
甲高い共鳴音がサロン中に響き渡り、激しい頭痛がレオンを襲う。

「ジーザス! 頭が割れる……!」

反射的に頭を押さえるレオンに向かって、早くも禿頭の邪教徒達が集まってくる。

(コイツらは何とも無いのか!?)

銃を構えようとするも、体のコントロールが効かない。
一歩踏み出すごとに頭痛が強まり、レオンは吐き気を催していた。

「……グローリア! ラス・プラーガス!!」

仕留め損ねた赤服の詠唱が響く。
するとレオンに寄ってきた邪教徒達の一部が苦しみ始め、頭が一斉に破裂した。
血や脳漿を撒き散らしながら、人食い花めいた邪悪な異形が姿を現す。

「マジかよ!」

それから波が引くように苦しみが遠退き、レオンはようやく体を動かす事ができた。
しかし状況は思わしくなく、既に複数の寄生体に取り囲まれている。

「俺も大人気だな……」

レオンは自虐気味に呟くと、まだ人間の姿を保っている邪教徒の膝を狙い撃った。
蹴り飛ばして活路を開くつもりなのだ。

だがレオンは一体の寄生体が姿を消した事に気づいていなかった。
天井に張り付き、音もなく獲物を狩る恐るべき敵に……。

膝をついた邪教徒の方へ向かおうとしたレオンは、地面を蹴った瞬間に総毛立つのを感じた。
死が降ってくる予感が、全身を強張らせる。

(──ナイフで受け流せるか!?)

パッと顔を上げたレオンの視界を埋め尽くしたのは、傘のように開いた赤黒い肉と、そこから生えた大量の鋭い牙だった。
そして一秒にも満たない時間で闇が全てを覆い隠し、何かを考える余裕も無いままレオンの意識は途絶えた。


……蟲がレオンの頸部に深々と食い込ませた牙を引き抜くと、悪趣味な赤い首輪のように首筋から血が噴出した。
頭を丸呑みされた状態からは解放されたものの、既に生命活動は停止している。

こうしてレオンは、未知の脅威に対抗できないまま命を落としたのだった……。


「……これはエージェントじゃなくてエクソシストの仕事だと思わないか?」

復活したレオンは、武器商人の所へ帰ってきていた。
安らげるのがここしかないのもあるが、今回は買い物が目的である。

「相手が悪魔だろうが何だろうが、頼るなら神じゃなくて俺達にしな! 武器さえあればどんなヤツでも倒せるぜ?」

武器商人はレオンの愚痴を聞きながら、セールストークも忘れない。

「はいはい、頼りにしてるさ……クラフト用の素材Lをくれ」

「毎度あり!」

レオンは買った素材Lで閃光手榴弾を作ると、再び貯蔵庫へと舞い戻った。
試したい事があったのだ。

(……アイツらを放っておけば、そのうち全員から寄生体が出てきて閃光手榴弾で一網打尽にできるんじゃないか?)

そう考えたレオンは、マラソンの覚悟を決めて邪教徒とのバトルを開始した。
貯蔵庫内は広い造りになっており、上下階が縦横無尽に繋がっている。

しかし詠唱によって露出した寄生体が5体を超える頃には、レオンもさすがに辛くなってきた。
ボウガン邪教徒もおり、もはや走り回るだけで解決できる状況ではない。

「サプライズは最後まで取って置きたかったが……プレゼントだ!」

レオンが閃光手榴弾を投げると、浄化されるように寄生体が溶け、生きている邪教徒も悶絶し始めた。
想定より早く使ってしまったが、まだ2個残っているので恐らくなんとかなるだろう。

だがその見通しは甘く、レオンは閃光手榴弾を使い切った挙げ句、弾切れに苦しめられる事になった。

「何処にいるんだ、あのヤギ野郎は!」

赤服邪教徒が被っている山羊の頭蓋骨を目印にして探し出そうとするレオン。
理不尽な頭痛もあり、完全にキレている。

しかしあるタイミングで詠唱が不自然に途切れ、レオンは一気に頭痛からも解放された。
周囲にいるのはもう、寄生体を生やした邪教徒だけである。

「結局赤服は何処だ……?」

レオンが適当に探し回っていると、思わぬ結果が判明した。
赤服邪教徒は、最期の詠唱で自らの頭部も寄生体に捧げていたのである。

丸呑み型の寄生体を生やした赤服を葬ると、レオンは錫杖の先にぶら下がっていた紅蓮のカンテラ……すなわち「火」を回収して像の仕掛けを解いたのだった。


その先の製本室でエイダとの邂逅を果たし、パズルを解いた先の廊下で今度は分離型プラーガとの邂逅を果たしたレオン。
次の行き先は大城壁である。

盾相手で必須のショットガンも弾切れになり、困り果てたレオンは武器商人に頼んでスピネルとパニッシャーを交換してもらっていた。
前世で稀に使っていた、盾貫通膝撃ち蹴り戦法で盾を剥がそうと考えたのだ。

「パニッシャーで撃てば盾を貫通するよな?」

「疑うならそこで試し射ちして来な、ストレンジャー!」

武器商人が跳ね橋の方を指差す。
この橋を渡った先が大城壁なのだ。

付近で早速現れた盾邪教徒相手にパニッシャーを構えるレオンだが、あることに気づいて頭を抱えた。
盾に隠れているため、どの辺がヒザだかよくわからないのである。
弾に余裕が無いため、前世のように当てずっぽうで撃つ事はできない。

「仕方無い、諦めるか……」

結局パニッシャーは数分で保管庫送りになり、レオンは手に馴染んだSG-09Rと、使いにくい代わりに矢を回収可能なボルトスロアーを頼りにして特攻するハメになった。
敵に刺さった矢は倒すまで回収できないが、弾切れの可能性が少しでも低いのは心強い。

そのうちハンドガンまで弾切れになりつつ、レオンは大城壁内部を駆け上った。
そしてそんなレオンを出迎えたのは、鎧を着たエルヒガンテだった。

「アディオス、サノバビッチ!」

レオンは巨人による投石を潜り抜け、最終的に大砲で葬り去ったのだった。


その先の部屋でアシュリーと偶然合流できたレオンは、泣きながら謝る彼女を慰めながら説得して和解。
それからすぐ、ルイスから通信が入った。

「悪い、しくじった……合流地点は舞踏場に変更だ。迎えに来てくれよ、チャーミング王子!」

「お前みたいなヒゲの濃いシンデレラがいてたまるか」

思わずツッコミを入れるレオンだが、ルイスはそれを無視して、

「舞踏会に遅れるなよ!」

と通信を切ったのだった……。


(次回に続く!)
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