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□バイオハザードRE:4
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第3回「良いモフモフ、悪いモフモフ」
(2023/4/5)

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静まり返った村長宅で、レオンは物音に怯えながら玄関を目指した。
キィ……という音がドアの軋む音なのか、自分の装備が擦れる音なのかすら判別がつかない。
ほんの数十歩が永遠に続くように思われた頃、レオンはようやく玄関の扉に手をかけた。
力無く扉を押し開け、周囲を窺いながら胸を撫で下ろす。

(だいぶ時間が経ったようだな……前世だと、デルラゴ漁を終えるまで日が落ちなかったはずだが?)

茜色の空を見上げて眉をひそめる。
暗くなると寄生体が出てくるため、いっそのこと夜はどこかに身を潜めて昼だけ探索したいくらいの気持ちだった。
自分に寄生したプラーガが成体になるタイムリミットを考えると、そうもいかないが。

──クゥン!

気分が落ち込んできたレオンの耳に、懐かしい声が聞こえてくる。
哀れを誘うような、犬の鳴き声である。

「ま、まさかお前は!?」

勢い良く振り向いたレオンの視界に飛び込んできたのは、トラバサミから必死に逃れようとする犬の姿であった。
モフモフとした白銀の毛並みは、神々しいほどの美しさである。

「今助けてやるからな!」

レオンは慌てて駆け寄ると、優しい手つきでトラバサミを外した。
最近この村に設置されているトラバサミは殺傷能力が無いとはいえ、痛いものは痛い。

「絶対恩返しに来いよーっ!!」

礼を言うように目を合わせてから走り去る犬の後ろ姿に向かって、レオンは声の限り叫んだ。
村の入口付近で犬の死体を見てから完全に諦めていたが、共闘の道は絶たれていなかったのである。

(信じられない程モフモフだったな……最早オオカミじゃないか?)

急に機嫌が良くなったレオンは、犬の撫で心地を想像しながら教会を目指した。
この後待ち受ける悲劇も知らずに……。


村中央の広場に戻ってきたレオンは、足音を殺して探索を開始した。
武器商人にスピネルと交換してもらった宝の地図によると、まだお宝が眠っているはずである。

(前世の記憶によれば、そろそろ村人達が帰ってくる頃だな)

村人の姿を探しながら、警戒した足取りで歩みを進める。
だがその直後、考え事が一発で吹っ飛ぶようなアクシデントがレオンを襲った。


見張り塔が爆音と共に崩壊したのである!!


「あ、アシュリーの隠れ場所予定地がーーっ!?」

既に上階が崩落していることも忘れてレオンは絶叫した。
前世での見張り塔といえば、アシュリーを救出した後の定番の隠れ家である。

「まさか俺以外にも前世の記憶を持つヤツがいるのか!?」

疑心暗鬼になりながらフラフラと後退りするレオンの耳に、今度は信じられない鳴き声が聞こえてくる。

──ギャワン! ギャワン! ギャワン!

「コルミロス!? 早すぎるだろ!」

レオンに向かって狂ったように吠えたてる、犬の群れ。
会っても全然嬉しくない方の犬達の登場である。

「うわっ、やめろ! 噛むな!」

鋭い牙で肩口を抉られながら、震える手で犬達に銃口を向ける。
一匹につきハンドガン2発程度で撃退できたものの、思ってたのと違うタイミングでの登場にレオンは動揺を隠せなかった。

(クソッ! 前世だと、犬っころの初登場は夜の沼だったのに……!)

結局ショットガンの民家で住人のおばさんと泥仕合になった挙げ句、そのまま農場に行ってから目的地が違うことに気づいて、レオンは疲労感を漂わせながら引き返してきた。
そして村中央広場の南東にある民家の裏手に、地下通路へつながるハシゴがあるのをようやく発見したのだった。

地下通路の先は村の集会場入口付近に繋がっており、見張り2名を続け様に蹴りで葬ったレオンは「イイのが入ったろ?」などと調子に乗り始めていた。
(※これは本当にレオンが言った)

しかし調子に乗る者は、必ず報いを受けるのである……。


それからレオンは集会場でエルヒガンテの頭蓋骨らしきものを鑑賞し、細い小路を通って武器商人の所へやってきていた。

「おっ、よく来たなストレンジャー!」

武器商人はカウンターに両肘をついた姿勢から、おもむろに背筋を伸ばしてレオンを出迎えた。

「なぁ、武器商人……客は俺しかいないんだし、座って店番したらどうだ?」

「へっへっへ、言われるまでもなく腰痛は年々悪化してるが……座っちまうと、今度は立つのが大変なんだ!」

武器商人はウインクしながら軽く腰を叩いた。
(※発言によると腰と目が辛いのは本当)

「そんなことよりストレンジャー、俺たちからの次の依頼はどうだ?」

「内容次第だな」

「まあ聞いてくれ! 実は仲間が病に伏せっていてな……滋養のあるものを食わせてやりたいんだ。そこで、クサリヘビ3匹の調達を頼む!」

「ヘビの捕獲? それなら俺じゃなくて『で、味は?』が口癖の伝説の傭兵を探してキャプチャーしてもらった方がいいと思うがな……」

「そいつだと自分で食っちまうからダメだ、ストレンジャー!」

とりあえず依頼を受けたレオンは、クサリヘビがどこにいるのか考えを巡らせていた。

(よく木箱の中から不意討ちしてきた記憶があるが、場所が思い出せないな……待てよ、たしか沼でも泳いでたはずだ! それを取ってくればスピネルは俺のものだな……!)

早くも勝利の笑みを浮かべたレオンは、気分が良くなったため武器商人から新武器ボルトスロアー(※ナイフを素材とした矢を射出する武器で、矢は発射後回収可能)を購入した。

「値段にガッツ入れといたぜ!」

にこやかに見送ってくれる武器商人に手を振り、レオンは意気揚々と教会へ向かったのだった。


結局ボルトスロアーは使いにくくてお蔵入りしたものの、墓地で忌まわしい双子の家紋を破壊する依頼を達成。
テンションそのままに、レオンは教会横の崖際の通路を進んでいた。

そして脇にある小屋で何気無く木箱を壊し、入口から突然現れた村人に斧で斬りつけられたタイミングで、それは現れた。

──シャーッ!!

「痛っ!!?」

斧の痛みに続いて襲い来る謎の痛み。
村人の斬撃に身構えていたレオンは、全く想定外の方向から訪れた痛みに一瞬何が起きたのかわからなかった。

「っ、そういえば……!」

不意に前世の記憶が蘇り、悔しげに顔を歪める。
襲撃者の正体に予想がついたのだ。

慌てて小屋を脱したレオンが足元を見ると、思った通り黄色い蛇がニョロニョロとのたくっていた。
おそらくだが、前世と同じく小屋の木箱に潜んでいたのである。
結局レオンはそのクサリヘビをキャプチャーすることに成功したものの、肝心な時に前世の記憶を活かせなかった悔しさが胸につかえて仕方ないのであった。


それからレオンは警官の死体がデルラゴに丸呑みされるのを目撃後、船着き場のボートが燃料切れだったため、予備の燃料を求めて養殖場を訪れていた。

(前世だと「沼」と呼ばれていたはずだが……まさかヘビの養殖場になったのか?)

それはないな、と首を振りながら沼の泥水に浸かる。
そして先に進むレオンを待ち受けていたのは……農場と同じく、牛の皮を被ったハンマー男だった。

「ファッキュー!!」

またもや脳天にハンマーを振り下ろされたレオンが、怒りに任せて破片手榴弾を沼に投げ込む。
するとレオンは爆風に倒れる牛男と村人の他に、何か浮いてくるのを発見した。

──そう、満を持してのブラックバス登場である!

「意図せずにダイナマイト漁をしてしまったな!」

にやにやしながら生魚をアタッシュケースに詰め込むレオン。
養殖場ということはもっと泳いでいるに違いなく、思わず頬も緩もうというものである。

しかし養殖場でレオンが捕まえたのは、クサリヘビ5匹とブラックバス3匹であった。

「やっぱりヘビの養殖場じゃないか!!」

ナイフで刺し殺したヘビをアタッシュケースに押し込めながら毒づくレオン。
ケース内でヘビと魚が絡み合い、地獄のような有り様である。

その後レオンは燃料入手直後にワイヤートラップに引っ掛かるというポンコツっぷりを見せつけたものの、奇跡的に燃料に引火しなかったため事なきを得た。

そして船着き場を素通りし、港のような佇まいの隠れ家にいる武器商人を訪れたレオンは、ようやく規定数のクサリヘビを売却したのだった。

「恩に着るぜ、ストレンジャー! ついでにもう1つ頼まれてくれないか? 実は、金の卵を採ってきて欲しいんだ」

「いつも世話になってるアンタの頼みは聞いてやりたいところだが、今回は厳しいかもな……最近、鶏があまり卵を産まないんだ」

気落ちした様子のレオンを、武器商人が陽気にフォローする。

「そんな顔するなよ、ストレンジャー! そうだ、アンタの好きそうな商品があるぜ? 夜が不安なアンタにピッタリのヤツだ」

「P.R.L412でも売ってくれるのか?」

「そこまで強力じゃないが……閃光手榴弾のレシピがあるんだ!」

今後のことを考えて、レオンは生唾を飲み込んだ。
閃光手榴弾は、対寄生体戦における切り札である。

「……わかった。素材も余ってるし、買うよ」

「へっへっへ、ハッピークッキング!!」

ニヤリと笑う武器商人とは逆に、懐が寂しくなって表情が曇るレオン。
それからレオンは、武器商人の近くに豪華な別室があることに気がついた。

──射的場である。

エイムに自信の無いレオンはAランクしか取れなかったものの、その報酬でガチャガチャを2回まわすことができた。
(※アタッシュケースにつけるチャームが出て来る)

そして一発目を引いたレオンは、中身を見た瞬間に思わず文句を言っていた。

「おい武器商人! なんで世紀末ガナードのチャームなんか入ってるんだ!」

『ヒヒッ、そういうのが趣味のヤツもいるのさ』

スピーカー越しに返事をする武器商人。
ツルッパゲでトゲトゲの肩パッドを装着した巨漢にトゲ付きハンマーで頭をカチ割られた前世の記憶が蘇ったレオンは、納得いかない表情で二度目のガチャガチャに挑んだ。
そして中身を見た瞬間、驚愕の声をあげた。

「こ、これは……! 前世のアシュリー!」

目を見開いて、チャームをまじまじと見つめる。
季節感のよくわからないノースリーブのセーターを着ており、どう見ても前世のアシュリーである。

『可愛いだろ? ストラップもピンクにしておいたぜ!』

武器商人の声はやけに明るい。
こうしてレオンは、世紀末ガナードとアシュリー(エピック)のチャームを、アタッシュケース下部にじゃらじゃらとぶら下げる事になったのだった。


「どうだいストレンジャー? 懐かしい気持ちになっただろ?」

射的場から戻ってきたレオンに、武器商人がドヤ顔で話しかける。

「……そうだな。ガチャガチャの説明文によると、このアシュリーのチャームの効果は『生ハーブの美味しさ5割アップ』らしいが……」

レオンは一旦言葉を切ると、遠い目をした。

「……2人で生のハーブをムシャムシャ食ったことを思い出して、目頭が熱くなったよ」

「それは何よりだぜ!」

グッ!!とサムズアップする武器商人に、レオンは冷めた視線で応じる。


それからレオンは寒中水泳の準備体操をしてからデルラゴとの戦いに臨んだが、いくらボートが揺れても湖に放り出されることはなく、結局泳ぎを披露することは一度も無かった。

そして座礁先でボートが沈没。
ハニガン曰く3時間も気絶している間に日も沈み、土砂降りの雨の中で探索を再開することになった。

「絶対寄生体出るだろ……」

覚悟を決めて歩き出したレオンの前に立ち塞がったのは、頭部が既に大量の刃物状の触手と化した村人だった。

「やっぱりな!!」

疲れ切った様子のレオンが、自棄気味に閃光手榴弾を投げつける。
弱点は変わらないようで、寄生体は一瞬でこの世を去った。

(……寄生体を出さないようにするには、蹴りで倒すんだったか?)

レオンは前世の記憶を思い出しながら、次に現れた村人に蹴りをお見舞いした。


──しかしその直後、村人の頭が弾け飛び寄生体が現れた。

「ファッキュー!!」

レオンは毒づくとボルトアクションライフルで寄生体を葬ったものの、事前の対策手段が消えたことに困惑を隠せなかった。

それから洞窟で謎の壁画を発見したレオンは、教会の鍵を入手するために周辺を探索しなければならなくなり、船着き場でボートを一艘強奪した。

「気分が乗らないな……宝の地図に記載されてる場所を巡ってから、武器商人のところで一息つくか……」

そして湖の北東へ向かったレオンを待ち受けていたのは、お宝以上の価値がある天国のような空間だった。
たくさんのニワトリが飼われている養鶏場だったのだ!

雨でビショビショになりながら、卵欲しさに鶏を追いかけ回すレオン。
すると天に祈りが通じたのか、金の卵が産み落とされた。

「やったぜ!!」

滝のような雨の中でガッツポーズを決めるレオン。
もちろん茶卵も数個ゲットである。

さらに湖中央の座礁船からレッド9を回収し、レオンはウキウキ気分でボートを操り武器商人付近の桟橋を目指した。

そしてその途中で、レオンはとんでもないものと遭遇した。

体長1メートルはあろうかという、巨大な魚影である!

「ランカーバスか!?」

一度通り過ぎてしまったレオンは、慌ててボートをUターンさせた。
そして狙いをつけて、素早く銛を投げつける。

「──ビンゴ!!」

湖面に赤い血が広がり、横向きの巨大魚が浮き上がった。
しかしレオンはそこで、アタッシュケースの中身がパンパンなことを思い出していた。

「ま……マズい! 前世のランカーバスは、ハンドガン2丁分の空間が必要だったよな!?」

だがいくら頑張っても、そんなスペースは確保できない。

「ええい、これでどうだ!!」

レオンが力の限りランカーバスを押し込めると、なんとランカーバスはハンドガン1丁&弾薬1箱分の大きさに圧縮された。

「ど、どうなってるのかわからん! 四次元アタッシュケースか!?」

武器商人の超技術によって作られたアタッシュケースのおかげで、レオンはランカーバスを持ち帰ることができた。
しかし異次元の技術力に、恐ろしさを感じずにはいられないのだった……。


(次回に続く!)
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