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□嘘をつく嘘
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「今年も騙されたのだ!」
僕の目の前で了平がひたすら喋ってるのだが、今一言いたいことが伝わらない。
何とか要所を引っ張り上げ、話の内容を要約すると、トレーニング中の了平に剣道部の主将が『京子が連れ去られた』と通告。
それを聞いた了平は、妹の名前を叫びながら街中捜し回ったらしい。
まあ、最終的にはいつもの群れの中に妹は居たらしく、解決だったが。
『お兄さん騙されてませんか?』
と小動物の言葉で、今日が四月馬鹿だったと気が付いたと言う事だったらしい。
熱心に語る了平の話を、適当に相づちをつきながら聞いていたけど、何だか面白くないので悪戯を仕掛けてみようと思い立った。
「持田のやつがな…」
「了平」
「なんだ?」
「僕も嘘を吐いて上げるよ…了平愛してる」
僕の愛の言葉に嬉しそうな表情を見せた了平は、喜んでいたが次の瞬間首を傾げる。
「愛してるが嘘だったら……雲雀俺が嫌いなのか!?」
「さあ?」
訳の分からない叫び声をあげながら、了平が応接室から駆け出していく。
これくらい良いよね、僕を目の前にしながら他のことばかり話す君が悪いんだよ?
まあ最後に説明しないとあの馬鹿分からないだろうけど。
並盛商店街を、この世の終わりの様な顔をして走っている了平に持田は声をかけたのだが了平は
「雲雀に愛してると言われたのだ!!」
と泣きながら訴えた。
『愛してるの何処が悪いんだよ!?』
意味が分からない持田に了平は事の顛末を話したのだが、全てを聞き終わった瞬間、ため息をついた持田が一言。
「オメー愛されてんじゃねえか」
「何故だ!?嘘を吐いて良い日に好きだと言われたのだぞ!」
持田は意味が分からない了平に分かりやすく説明をする。
雲雀は最初に『嘘を吐いてあげる』と言った、要は【嘘をつく】ことが嘘だった事。
その事を聞いた了平はさっき迄の落ち込みはどこへやら、元気一杯で雲雀の元へ帰っていくその後ろ姿を見送りながら、馬鹿っぷるに呆れる持田だった。
【完】