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□借り物競争
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十月最初の日曜日、町内運動会が並盛中で開催されている。
勿論僕は見回りをかねて見に来ているのだが、それだけではない。
昨日了平が、この運動会に参加すると楽しそうに話していたので、その観察も兼ねている。
競技も終盤、借り物競争に参加していた了平が、紙を開き中を確認するなり、僕の方に一目散に駈けてきた。
「何?…って、ちょっ!!」
訳も分からないまま了平に引きずられ、そのままゴールに向かい走っていく。
ゴールに居た大人に紙を見せ、得意げな表情を見せる了平に対し、了平と僕の顔を交互に見る審判。
いやな予感を感じた僕は、そいつから紙を奪うと、中身を確認する。
そしてそこに書かれていた言葉に驚く。
【恋人】
一枚の白紙には一言そう書かれていた。
「了平!!」
嬉しさよりも恥ずかしさ一杯で、了平の頭を思いっきり殴りながら怒鳴る。
「なぜ殴るのだ!」
なぜ怒られているのか、まったく持って分からない了平は、殴られた頭を擦りながら怒る。
「何これ!」
紙を見せながら抗議する雲雀に了平は、訳が分からないと言った感じで反論する。
「俺は何も間違ってはおらんぞ!!お前は俺の恋……」
全部を言い切る前に、雲雀のトンファーが思いっきり了平の頭に突き刺さった。
「ねえ君、今あったこと全て忘れてくれる?」
冷ややかな表情で、審判の大人に告げると、意識を失い倒れている了平を抱えあげると校舎に向かい歩きだした。
【完】