□梅雨のち晴天
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六月ともなれば雨が降り続き苛々も積もる。
屋上でのんびりする事も、咬み殺す相手を探しに、街を徘徊することもできないからだ。
天気予報を信じていたわけではないが、20%という予報に傘を持ってこなかった。
下校時間が近づく頃には、バケツの水を引っ繰り返したような大雨になり帰るに帰れなくなってしまった。
濡れて帰るかと思ったとき、後ろから大声で話し掛けられた。

「雲雀ではないか!」

『嫌な奴に会った』と、この時僕は思った。
学校中の誰しもが、必要最低限の会話しか話し掛けてこない中、この男は必要以上に接触してくる。
最近では昼食後に、手合せをすることも多くなっていた。
黙ったままの僕に構わず話を進める。
「もう下校時間だが、雲雀は帰らんのか?」
「…帰るよ」
「では帰ろう!」

僕の横で折り畳み傘を乱雑に広げている。
「傘はどうした」
無視して雨の中、帰ろうと一歩踏み出しかけた時、了平に腕を掴まれる。

「傘を忘れたのか?風邪を引くといかんから、この傘を使え!」
そう言うと僕に傘を押しつけ、了平は雨の降る中、駈けていった。


「ちょっと!」
僕の呼び止めに、脚を止め振り返った了平は拳を上に振り上げ
「返すのはいつでもいいからな!!」

それは出会って間もない頃の話。


今では仲良く一つの傘で帰ることも珍しくはない。
相合傘で帰ると必ず、了平の左側が濡れ、最初は護られている感じで不快感一杯だったが、それが了平の優しさだと分かったので今では黙っている。

その代わり…
「了平、上がっていきなよ。そのままだと風邪引くよ」
雨に濡れた了平を家に上げ、服が乾くまでの間の二人だけの時間。
憂欝だった雨の細やかな楽しみ。


「早く梅雨がおわるといいのだが」
「そうだね」
了平の独り言を聞きながら、返事を返す。
夏の日差しは、君みたいで大好きだから梅雨は早く終わってほしい。
けど、君と過ごす梅雨の楽しみも好きなんだけどね。
【完】

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