□我儘
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何時ものように懺悔をしに教会へ、と言う名目でナックルに会いに来ていた僕は口を開いた。

「今日、誕生日なんだけど」

誕生日など特に気に掛けたこともなかったのだが、目の前に居るこの男が、どのような反応を示すかが気になったので、口にしてみた。
「お前が生まれたこの日に祝福を」
彼の口からはお決まりの台詞。
予想どおりの反応につい意地悪をしたくなる。
「詞じゃなくて何か無いの?」
手を差し出す僕を見、眉間に皺を寄せ、深いため息を吐きながら答える。
「急に言われてプレゼントなどはない」
「じゃあ、君の手に持ってるのでいいよ」
「…このロザリオか?」
ナックルの右手にはシンプルなデザインの十字架が一つ。
彼が神父として、第二の人生を歩み始めた時から手にしていたもの。
「こんな安物…」
「それがいいんだよ」
間髪入れずに答えた僕を暫らく見ていたナックルは、無言で僕の目の前にロザリオを差出し、真剣な眼差しで諭すように呟いた。
「お前は無茶をするからな、これを持っておれ、きっと神のご加護があるだろう」
ロザリオを僕の手に置き、包み込むように手を握った。


別に、誕生日を祝って欲しかったわけではなかった。ただ彼の意志をこちらに向けたかっただけ。
「僕は…神なんて信じない」
彼を日陰の道に落としめた神なんて、僕は信じたりはしない…信じるのは自分自身だけ。
教会を背に僕は、ロザリオに苛立ちを込め、口付けを落とした。

【完】

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