□ハッピー?バレンタイン
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今思い返してもあの時は辛かった。
家人を起こすわけにもいかず、朝までトイレとベッドを何往復も…。
否、今は思い出に浸っている場合ではなく、今現在目の前に置かれている問題をどうにかしなければ…。


了平の目の前には、溶けたチョコの入った鍋が置かれていて、甘い良い匂いが部屋中に充満している。
それだけなら、問題はないのだが、鍋の中から覗く物体が問題なのだ。
「雲雀…これは?」
「バナナ」
否、果物がチョコの中で茹っておるのは別にかまわん、チョコバナナと言う食べ物もあるのだからな。
「それでなくて、あの赤いもの…」
「ああ。蛸」
そうそれだ!なぜ蛸が入っておるのだ!?しかも蛸だけではなく、鯛のお頭まで…。
昔こんな食べ物を聞いたことがあったな、闇鍋。
箸で摘んだものは、絶対完食しなければいけないルールだったな。
箸を握りしめたまま、微動だにしない俺を見つめながら、茶碗に謎の物体をよそい、目の前に差し出す。
「君の健康を考えて、頑張って作ったんだ」
雲雀、その目と言葉は反則だ!お前にそんな事言われたら、食わんわけにはいかんだろう。
確か、中学の手作りチョコの時も、『TVで健康に良いって言ってたから…』と、ラッキョウが入ってたっけか。
しかも三粒。
思い出に浸りながらも、茶碗に並々と注がれた、チョコまみれの蛸を箸で摘み上げ口に運ぶ。


手作りは嬉しいが、バレンタインに少しトラウマを持った了平は、来年は何か作られる前に、店の予約でもしておこうと、堅く心に誓った。


【完】
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