☆矢文.

□牡羊座最終兵器
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「いいですか貴鬼、私が留守の間にシオンが手料理を進めてきても絶対に食べたら駄目ですからね」

何故か白羊宮ではムウの長い説明が繰り広げられていた。
この度長い休暇を取る事になったムウはジャミールに籠もる事に決めた。
本来なら貴鬼も連れて行く筈だったのだが諸事情で断念、そこでムウは貴鬼に自分が居ない間の不測の事態を避けるが為に、起こり得るであろう案件に対する注意を聞かせていたのだった。
話も終盤、そこで最後に言い渡された言葉が『シオンの手料理を絶対食べるな』と言うものだった。

「ムウ様、何故ですか?」

何故シオンの手料理を食べてはいけないのか、全くもって訳の分からない貴鬼の疑問に、ムウは自分自身の昔話を始めた。



あれはムウが聖域に修復師として又、未来の牡羊座となるべくしてやって来た頃の話。
自分の後継ぎとなる可愛い弟子に、何を思ったのかそれ迄料理など作ったことが無いシオンはいきなり手料理を振る舞った。
師であるシオンの持て成しにムウは喜び、それは嬉しそうに一口食べたのだが、ふと気付いたムウは見知らぬ場所に一人立っていることに気づいた。

『あれ、私はシオン様の手料理を食べていたはず……』

ここは何処なのかと辺りを見回すと、表情の無い沢山の人が列をなし歩いていることに気付く。
あの列に着いて行かなければ、とムウは惹かれるように列に加わろうとした瞬間、誰かに止めらる。

「チビ羊死にてぇのか!!」

振り返るとデスマスクが凄く怖い顔でムウの腕を掴んでいる。
そしてため息混じりに忠告。

「死にたくなかったら、ジジイの手料理は絶対喰うな」

何故との問いにデスマスクは、『あれはジジイの否、牡羊座の最終兵器だ』と説明し、更に敵味方構わず食らったら即死という最終兵器だ、と笑いながら言った。



「私はあの時、この必殺技を取得しないと牡羊座な成れないのだと、解釈したのですよねぇ」

「ムウ様、おいらも取得しないと牡羊座になれないの?」

貴鬼の不安そうな問いに、ムウは頭を撫で笑いながら答える。

「大丈夫ですよ、私は取得しなくても牡羊座になれましたから」

そうあれは牡羊座の必殺技ではなくシオンの必殺技なのだと、その後色々頑張っていたチビ羊ことムウは、最終的に気付いたのである。
話を聞き終えた貴鬼は何かを思い出しムウに告げる。

「ムウ様さっき教皇宮に行ったとき、老師にってシオン様キッチンで何か作ってたんだけど…」
『ムウ、爺さんがさっきからおかしい事を呟いてんだが、耄碌したのか』

ムウと貴鬼の会話の間に、デスマスクからの小宇宙通信が割って入ってきた。

『デスマスクいいところに、シオンが老師に手料理を食べさせようとしているみたいです』

『はぁ!?あのジジイなにかまして……爺さん辞世の句を読み始めた、早まるな!!』

ムウの告げ口をうけ、光速で教皇宮に着いたデスマスクが寸での所でシオンを取り押さえ、老師を救出。
その後遅れてムウもやって来たのだが、デスマスクとムウの忠告も聞く耳を持たない、肉体だけは若い二百歳越えの老人一人。

「おまえら何故事有る毎に私の邪魔をするのか!」

「毎回言ってんだろジジイ犯罪を犯すなって!」

偉い剣幕のデスマスクに目一杯怒られながらも反論するシオン。

「私は、只童虎に手料理を…」

「味見はしたのですか」

「味見ぐらい……」

ムウの問いにシオンは怒りながらも、自分の作った料理を掴むと口に運ぶのだが、自分の作った料理を口にした瞬間にその場に倒れこむ事になった。
そんなシオンにムウは冷静に対応する。

「デスマスク、暫くこのままでいいですよ反省させましょう。」

数時間後、冥界から『そちらの教皇が暴れてますので迎えに来てください』と連絡が入り迎えに行く事になる事を、この時点でデスマスクは知らない。
どこに居てもシオンは最強である。

【完】

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