☆矢文.
□脱がせるか、脱いでもらうか
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「ねえ、サガ」
「断る」
「少しだけだからさ」
「そんな恥ずかしい事は断る!」
何時もなら二人で仲良く戯れている時間の筈なのだが、人馬宮のプライベートルームのベッドの上では、アイオロスとサガが小一時間押し問答を繰り広げている。
事の発端は昼間の【サガって下着を着けないのか?】との星矢の質問からだった。
確かにサガは下着を着けないが、その事を知っている誰かから聞いたのか、と思ったのだがそうではないらしい。
あれはアテナの胸に刺さった矢を抜くため、青銅聖闘士五人は、教皇の間に居る教皇をアテナの前に引きずりだし矢を抜かせる為に、教皇の間へと向かい十二宮突破を果たした時の事。
必死だった星矢はその時は何とも思わなかったのだが、後々思い返すと疑問が一杯。
それは、教皇の間に辿り着いた星矢の目の前で、偽教皇は法衣を脱ぎ去りあまつさえ真っ裸の状態で、双子座の聖衣を纏ったのだから。
「星矢…見たの?」
「あんまり憶えてないんだけどさぁ」
「で、見たの?」
あくまでもアイオロスの気になる事は、サガが真っ裸で聖衣を纏ったことよりも、星矢がサガの裸を見たのかどうからしい。
その事に気付かない星矢は、暫らく考え笑顔で
「見せられた?かな」
とだけ答えた。
そして最後に『アイオロス、サガに下着穿けって言ってやれよ、風邪引くぜ』と言う言葉を残して帰ったのだが、アイオロスは全く別な事を考えていた。
そして今に至る。
アイオロス曰く、星矢には自らストリップという裸体を披露したのに、恋人である自分には見せてくれないのか!?という身勝手な言い分だった。
普段からサガの裸どころか、それ以上の恥ずかしい行為をしているのに、アイオロスの目の前でストリップをしろなんて、これ以上の恥ずかしい行為は遠慮したいと、顔を真っ赤にしたサガは心の中で呟く。
「あれは【ワタシ】であって私ではない!!どうしてもと言うなら、私ではなく【ワタシ】にお願いしろ」
冷たく言い放つサガに、アイオロスは諦めたかのように見えたのだが……
「獅子座匿え!!」
天気の良い昼下がり、獅子宮で寛いでいるアイオリアの元に黒サガが急に現れた。
「!?黒…」
「射手座が来たらワタシは居ないと言え!」
黒サガが小宇宙を収め部屋の隅に隠れたすぐ後、走ってくる兄の姿を確認する。
「兄さんどうしたの?」
「サガが逃げたので探してる」
「…で、今回は何したの?」
いつも起きる騒動は、大抵は兄であるアイオロスが原因な事が殆どなので、遠回しに聞いても無理な事を知っているアイオリアは単刀直入に聞く。
「いつもどおりだ!!」
自信満々、いつもの笑顔を見せながら十二宮を登っていく兄の後ろ姿見送りながら、後ろで息を潜めていた黒サガにそれとなく聞いてみた。
「…で?」
「あの馬鹿、このワタシにストリップをしてみせろと言い放ったのだ!!」
久々に現れた黒サガにアイオロスは躊躇う事なく『私の為だけにストリップを見せてくれ!!』と言い放ったらしい。
「ストリップ…」
キャベツ畑を信じていたアイオリアは、その後色々(知らなくても良いことなども)教えてもらい知識としては知っている。
黒サガの口からは、盛大なため息とともに吐き出される愚痴、今回の事はかなり堪えているみたいだ。
自分が悪いわけではないが、身内である兄の行動に疲れているサガに悪い気がして謝る。
「すまない」
「お前が謝る事ではない、獅子座とあの馬鹿を足して割ればまともだったろうな」
黒サガはアイオリアの頭を撫でながら、笑みを浮かべて呟く。
こうしていたら普段のサガも黒サガも変わらないんだよな、等と考え黙って撫でられるアイオリア。
「サガ!見つけた」
「ちっ、見つかったか」
いつの間にか獅子宮に戻ってきたアイオロスから逃げるため、踵を返し黒サガは階段を駈け降り、その後をアイオロスが楽しそうに追い掛けていく。
その後、サガのストリップが開催されたのかは誰も知らない。
【完】