☆矢文.

□七夕話
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【永遠】

「ロス、なんだこれは」
人馬宮の入り口には、色紙で彩られた笹が飾られていた。
「星矢が七夕だからって置いていったんだよ」
「七夕?」
馴染みのない言葉に、サガは問い掛ける。
「私も詳しくは知らないが、恋人にこの日だけしか会えないらしい」
アイオロスは星矢に聞いた七夕の話をサガに話して聞かせた。
説明を聞き終えたサガは、悲しそうな顔を見せながら話す。
「年に一回でも二人は会えるのだな」
「サガ?」
「私は会えなかった…」
アイオロスが死んで十三年間、会えなかったと、大粒の涙を流しながら語るサガ。
『スイッチ入っちゃった』
アイオロスは自分の失言に後悔を見せる。
アイオロス自身は十三年前の事は、全然気にはしていないのだが、サガは会話とか行動などの些細なことでスイッチが入るのだ。
十三年前の事を悔やみながらひたすらに謝るというスイッチが。
地べたに踞りながら、泣き続けるサガをアイオロスは優しく抱き締めながら囁く。
「サガ、もう心配はいらないよ私は此処にいる、ずっと傍にいるから」
頬を両手で挟み顔を上げさせると、口付けた。

「しかし私は…」
サガの言葉を遮るようにアイオロスは続ける。
「十三年間確かに会えなかった、けれど今はこうして毎日会える。君と何時でも触れ合えることができる…それでは駄目?」
アイオロスの背中に回されたサガの手が服を強く掴む。




隣で眠る恋人の頭を優しく撫でながら、アイオロスは溜め息を吐く。
「サガは大好きなんだけどね…」
「では、何が嫌なのだ」
寝ていたはずのサガからの突然の問い掛けと共に、触っていたサガの髪の色が漆黒に変わり、真っ赤な瞳が開かれる。
「やあ、サガ久しぶり」
アイオロスは此方のサガに対しても変わらない態度で接する。
どちらのサガもアイオロスにとってはサガなのだ。
「で『ワタシ』の何が嫌なのだ」
「サガに涙は似合わないと思わないかい」
至って真面目に答えるアイオロス。
生き返ったアイオロスが目を開けて、最初に見たのは目に一杯の涙を浮かべたサガだった。
サガは大好きだが、泣き顔は胸を締め付けられる思いがするから嫌なのだと。

「お前を失ったと『ワタシ』は十三年間ずっと泣いて過ごしていたからな」
黒サガは本体のことを『ワタシ』と呼ぶ。それは二人が違うものでありながらも、同じなのだと言う意味をこめて。
「サガは私の事だけを考えてくれてたんだ」
アイオロスは嬉しそうに答える。
「お前は馬鹿か?『ワタシ』に逆賊の汚名を着せられ殺されたのだぞ」
「そうかな、私は嬉しいよ。十三年間サガの心を支配出来たのだから」
もしこのまま何事もなく過ぎていたら、サガは自分に興味を持ってくれただろうか、自分が居なくなることで、サガの心を独り占めすることができた、それが嬉しいのだと笑いながら答える。
「精々嫌われないように頑張るんだな」
「大丈夫、私は誰よりもサガを愛してるからね」


暫らくの沈黙の後。
「…貴様どこを触ってる!」
「サガには少し無理させちゃったし、君ならタフかなって」

シーツの上から黒サガの身体をまさぐりながら答えるアイオロス。
「ちょっと待て!尻を触るな!!」
その後、人馬宮から小宇宙のぶつかり合いの後、破壊音が鳴り響いたらしい。



【完】
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