☆矢文.

□再会と思惑
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眉間に皺を寄せ、不快そうな視線を向けていたシオンは、かつての同胞、そして恋人である童虎に向け口を開く。
「恋人が若くピチピチの状態で復活した姿を見ても、お前は何も感じないのかー!!」
アテナの首を獲りにきたと言って対峙していた、恋人がいきなりの爆弾発言。

「偽りの命によって、生き返ったおぬしなど、何とも思わんわ」
視線を反らせ童虎は、シオンに言い放つ。

二人のやり取りを、膝を付いた状態で動けないムウは、おとなしく聞いていた。
ここで口を挟もうものなら、シオンの怒りを買う事をわかっている。
例えハーデスの軍門に下ったとしても、シオンの童虎に対する愛情は変わらないからだ。

シオンは蔑んだ表情を見せ
「老いたな、童虎よ。昔のお前なら見境無く抱きついたであろうに」
「あの頃は若かったのでな」
童虎は笑いながら答える。

「…このままお前と押し問答をしていても埒があかん。お前を殺して、ハーデスに頼み18才の肉体で復活させてやるわ!」
結局は18才の身体でラブラブしたいだけのシオン。
「止めておけ。ワシはそんなことに興味はないぞ」
「お前の意見なぞ、聞かん!」
一触即発の雰囲気の中、自分の体が自由になったのをムウは感じた。
『助かった』とムウは本気で思った。
このまま長老二人の痴話喧嘩に付き合うよりは、早くアテナの元へ行かなければ。
「ムウよ早ようアテナの元へ行くのじゃ。このわからず屋の仕置きはワシ一人で十分じゃからの」
「待て」
横を通り過ぎようとするムウを止めようとするが、それより先にムウが一言告げる。
「我が師シオン。あまり我儘が過ぎると、老師に嫌われますよ」
一度振り向き、忠告をしたムウは、足早にその場を去った。

その後、紫龍が現われたり、童虎が脱皮をしたりと一悶着あったのだが、今は二人並んでアテナ神殿に向かい走っている。





「私の芝居もたいしたものであろう」
「芝居ではなくて本気だったじゃろう。何が18才じゃ」
二人が対峙していたすぐ側に、スペクターどもが潜んでいたことは童虎にもわかっていたのだが。
「おぬし、ワシがわからんとでも思うか」
「ふん、お前が早く脱皮をせんからじゃ」

「しかし、お前ほどの男が何故ハーデスの誘いに…」
「…アテナに聖衣をと」
シオンの一瞬の間を見逃す童虎ではない。
「シオン、建て前はいい。本音は?」
長い沈黙の後、シオンの口からはまたまた爆弾発言。

「ハーデスが18才の身体で生き返らせると…」
「…」
呆れた顔で自分を見る童虎に向かって声を上げる。
「お前に会うのに、18才の姿で会いたいと思うこの男心がわからんのかー!」
「ワシにはわからん!どの様な姿であってもシオンはシオンじゃ。」
「童虎…」
童虎の嬉しい告白に落ち着きを取り戻したシオンは童虎に言う。

「どの様な姿でもと言ったな。ではゴキブリでも良いのか?」
顎に手を乗せ、暫らく考えていたが、一言。
「やはり人間がいいのう」

「やはりお前もそれだけの男と言うことか、お前に一瞬でもときめいた私の純情を返せ!」
「そのように不貞腐れるでない、可愛い顔が台無しじゃ」
不貞腐れながら、悪態を尽くシオンに、童虎は手を差し出す。
「…何だその手は」
「手を繋いでやるから、機嫌を直せ。」




243年振りに互いの温もりを感じながら二人は走る。
手を繋いで走る二人を見ているのは、真ん丸お月さまだけ。

【完】

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