☆矢文.
□星の降る夜に
1ページ/1ページ
243年振りに再開した旧友シオンは、本来憎むべき敵ハーデスに18才という若い肉体を授かり、その身に冥衣を纏いて、アテナを殺しにきたのだと。
シオンの瞳の奥に映る真意を知り得た童虎は、互いに必殺技を繰り出し監視の目を欺くと、シオンは隠していた心の内を話す。
「女神に聖衣を」
そして今、長い階段を童虎とシオンは、アテナ神殿に向かい走っている。
「…憎むべき相手だが、感謝もしている」
並んで走っていたシオンはそう呟く。
シオンの言う憎むべき相手とは、全聖戦からの因縁の敵ハーデスの事…しかもシオンに偽りの体を与えた男。
「偽りの命を与えられたことにか?」
「ああ」
そう答えたシオンは、優しい微笑みを童虎に向けると、その瞳を見つめ、嬉しそうに言う。
「今度こそお前の傍で、お前に見取られて逝くことが出来る」
シオンは、サガの乱で248年の生涯を終えるとき、遠く五老峰で感じる小宇宙に淋しさを感じた、童虎もまた動けぬこの身に、苛立ちを感じた。
「大丈夫じゃわしもすぐに逝くことになる、その時は酒でも酌み交わそう」
あと少し待つぐらい苦にはならんであろう、そのくらい、気の遠くなる程の長い時間を生きたのだから。
「酒だけか?」
童虎の言葉に不敵な笑みを浮かべたシオンは問う。
「わしを煽るな」
束の間の再会なのだが、二人優雅に語り合っている時間などはない、シオンには残された時間はあと僅か、その間にやるべき事をしなければならないからだ。
【アテナに聖衣を】
アテナの聖衣の隠し場所は、教皇であるシオンしか知らない、聖衣を纏わなければこの聖戦、勝ち目はないのだと…。
アテナ神殿に向かい走る二人の頭上には幾つもの星達が輝いていた。
【完】