☆矢文.
□身分違いの恋
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ここは色々な種類の動物を扱っているペットショップ【ジャミール】。
その一角では、血統書付きの可愛らしい双子の黒猫が生活していた。
その名は【サガとカノン】
今日も窓の外を眺めていたサガの視界に茶色い固まりが。
よく見てみると一匹の茶色い子犬。
『成る程あれが野良犬と言うものか』
カノンと違い下界を知らないサガは、窓のから見える範囲以外はよくわかってはいない。
下界の知識は大抵カノンが教えた事のみで、野良犬と言う存在も、ペットショップから脱走を図り1ヶ月近くの野良猫経験をしたカノンからもたらされたものだった。
いつしか、サガは毎日決まった時間に現れる彼に心を奪われていく。
「何見てんだよ」
毎日飽きもせず窓の外を眺めているサガに、サガと瓜二つの双子の弟カノンが尋ねる。
「彼、素敵だと思わないか」
そう語るサガの視線の先には犬一匹、しかもこちらにあらぬものを見せ付けている最中だった。
「何処見て言ってんだよ!!」
カノンに言われて視線を下げ、漸く意味を知るサガ。
「私はあれを見ていたわけではなく…彼の顔を…」
何となく分かっていたのでそれ以上は追求しないカノンを余所にサガは言い訳をする。
その後、放尿中だった犬は視線を上げサガと目が合うのだが、恥ずかしそうに慌てて帰っていった。
流石にもう来ないかと思われたが、いつも通りに現れたらしい…角度は変え見えないだろう場所に移動して。
毎日視線だけを交わす日々。
互いの声も温もりも分からないまるでロミオとジュリエット状態が続いていたが、サガにとうとう買われていくことに。
「カノン、私は明日ここを出ていく事になった」
「ああ知ってる」
サガはカノンの顔を舐めながら、何度か口をあけたり閉じたりして何かを伝えようとしている事に気付いたカノンは先を促す。
「言いたい事があるなら言え」
サガは最後のお願いをカノンに託す事に。
『何時もの時間には必ず私の振りをして、窓辺に座っていてほしい』と。
彼に伝えたくとも声が届かないこの状況下、急に姿を見せなくなって、彼を悲しませたくないのでカノンに託したいのだと。
兄の最後のお願いを承諾したカノンに、サガは満足そうだった。
【続く】