☆矢文.
□会えない時間
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満点の星の降り注ぐスターヒルの一角では、200歳を優に越えた年寄り二人が星見酒を楽しんでいた。
他愛のない会話の中で、今日7月7日は七夕という話になり、織姫と彦星の伝説を童虎が語った瞬間シオンの機嫌が悪くなった。
機嫌が悪くなるような話はしていないのだが、取りあえず童虎はシオンに訳を聞くと、不貞腐れた表情のままポツリ。
「1年に1回でも逢えるなら良いではないか」
「しかし、雨が降ったら会えないのじゃぞ」
「…私はずっと会えなかった」
前聖戦後童虎は五老峰で冥闘士の監視、シオンは次に来るであろう聖戦の為聖域で聖闘士の育成と忙しく、中々会うことも小宇宙通信もままならなかった。
最終的にはサガの乱で命を落とすその瞬間でさえも会うことも、言葉1つ交わすことさえ出来なかった。
シオンが拗ねた訳は、1年に1回でも会えるなら幸せではないのかと、長い間会うことも出来ず、しかも次に出会ったのは偽りとはいえ敵味方という自分と比べたら、恵まれているではないかと言うのである。
「シオン、今は何時でも好きな時に会えるではないか」
諭すように語る童虎の言葉に、無言で睨むと、更にボソリ。
「そうだな、お前は滅多に聖域に足を運ばないがな」
不機嫌の理由はもう1つ、確かに今は会いたい時に何時でも会えるのだが、童虎は余程の事が無ければ五老峰から出てこないのである。
だったらシオンが五老峰に行けば良いのだが、次期教皇であるアイオロスがまだまだ未熟なため、聖域から中々出る事が出来なかったりするのである。
「童虎…」
「なんじゃ」
「何でもない」
視線を反らし俯くシオンの、傍に居てほしいとは口に出せない気持ちを汲み取った童虎は、笑いながら優しく頭を撫でるのだった。
【完】