☆矢文.
□キャベツ畑と卵
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事の始まりは、アイオリアが草むらで一つの卵を拾ったことから始まる。
まさか卵1つで、こんな事態が引き起こされるとは、この時のサガは考えもしなかったのである。
「原っぱで卵見つけた」
アイオリアが笑顔で、サガに拾ってきた卵を大事そうに抱えて見せた。
「この卵、温めたら何か生まれるの?」
「そうだね生まれるかもしれないね」
何の卵か分からなかったのだが、アイオリアが楽しそうに聞いてくるので、夢を壊すのも悪いと考えたサガは笑顔でそう返した。
「じゃあ俺温める!!」
将来の黄金聖闘士候補で只今見習い中。
只今黄金と成るための厳しい訓練中、そんな最中卵を抱えての訓練は出来ないと諭したサガだったが、アイオリアの悲しそうな表情に仕方なくサガは卵を預かることとなったのだった。
「カノン、この卵を無事孵すにはどうしたらいいと思う?」
「テメーの腹で温めて孵せよ」
卵など孵した経験などないサガは、双児宮に帰りアイオリアから預かった卵を抱えカノンに聞いてみたのだが、その問いに興味無さそうにカノンは冗談でそう言ったその言葉を、真に受けたサガは大量のタオルで卵を包みお腹で暖め始めた……その姿はまるで妊婦。
その姿を見たカノンは少し後悔したのだが、訂正を入れる事はなく日にちが過ぎていったのだった。
「サガ、生まれそう?」
卵の中身が気になるのか、何時ものようにアイオリアはサガのお腹を擦りながら聞いてくる。
「まだみたいだね」
サガはあれから1週間、昼夜問わず自らのお腹で卵を温め続けている。
「何?」
サガとアイオリアが楽しそうに話している姿が目に入ったらしく、アイオロスが話に入ってきた。
「サガね、卵を温めてるの」
「今日で1週間なのだが、中々生まれないのだ」
大好きな兄の登場に一生懸命説明をするアイオリア。
それに対して説明を付け足すサガだったのだが、サガの告白後、目を見開いたアイオロスはサガの両肩を掴むと真面目な表情で話す。
「水臭いなサガ1人で抱え込んだりして、俺に相談してくれよ」
たかが卵、なのでアイオロスに相談するまでも無いと思っていたのだが、至って真面目な表情で言われ申し訳なかったと謝罪する。
「すまなかった、そうだな」
「じゃあ俺報告に行って来る!!」
「…報告?」
何を報告するのか意味の分かっていないサガに向かって、おかしい方向に暴走を始めたアイオロスは意気揚々と答える。
「俺いい父親になるからな!!」
「?」
アイオロスの言葉に意味も分からずそのまま見送ったサガだったが、数分後教皇宮に居るシオンから緊急の小宇宙通信が送られ、事の顛末を知ることになる。
『双子座サガよ…』
『教皇何か』
『……アイオロスがお前との結婚の許可を取りに来たのだが受理して良いのか?』
躊躇いがちに話される内容に、さっきアイオロスが放った言葉の意味を理解した。
『良い父親になる』即ち、アイオロスはサガが自分との子供を温めていると勘違いして、シオンに結婚の許可を貰いに行ったと。
取り敢えずサガが次にしなければならない事は、アイオロスの誤解を解く事。
『今から行きます』
光速で教皇宮へ来たサガは、アイオロスの首根っ子を捕まえると丁寧に説明をする。
「アイオロス、人間は卵を産まないんだよ」
「知ってるよ、キャベツ畑だろ」
人間は卵もキャベツ畑でもなく人から生まれる哺乳類である、アイオロスの発言は根本から違うので、サガが溜め息を吐きながら言う。
「アイオロス、私が一から説明をするから…」
「分かった、今晩人馬宮で聞くよ」
この時サガは、アイオロスの企みに気付かなかったのだが、シオンは二人のやり取りを黙って見ていて、何となくこれから起こる事態を予測していた。
その夜、人馬宮ではサガの保健体育の授業が開催されたのだが、アイオロスがサガを押し倒し実地体験突入!
「アイオロス、だから子供は出来ないと…」
「うん分かってるよ」
次の日。
「男同士では子供も卵も産まれないんだってあれほど言ったのに…」
昨晩アイオロスに良い場所を虐められ散々鳴かされたサガは、ベッドから動けないまま愚痴る。
「大丈夫、子供が出来ても出来なくても俺が責任とるから、サガ結婚しよう」
アイオロスの求婚に頬を紅く染めるサガ、万更でも無い様子。
【完】