文
□七夕の願い事
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「短冊に願い事を書きましょう」
そんな事言いながら、幼稚園の先生が短冊を皆に配った。
七夕の願い事、あの時僕は何て書いたっけ。
「皆で七夕をするから雲雀も来い!」
「嫌だ。行きたきゃ君だけ行きなよ」
僕が群れることが嫌な事を分かっているはずなのに、必ず声をかけてくる。
押し問答の末、最後は渋々了平が引き下がる事になるのだが…。
その日の夜遅くに、了平に公園に呼び出され、出向いた僕の手を了平が強く握り締める。
「何してるの」
了平の行動の意味がわからない僕は、振りほどくこともせず了平を見つめながら聞く。
「織姫と彦星は一年に一回しか会えないが、俺たちはずっと一緒だ!」
了平の真っ赤な顔の告白に、忘れていたあの日の事が思い出された。
そうだ、あの時短冊の願い事『ずっといっしょにいたい』って書いた。
僕の書いた短冊を見た了平が、笑顔一杯大声で、
「ひばりおれもいっしょにいたいぞ!」
って言ってくれたんだ。
「よく覚えてたね、僕でさえ忘れてたのに」
「俺もさっき思い出したのだ」
短冊に願い事を書いていてふと思い出したのだと、了平が頭を掻きながら言う。そしてズボンのポケットから、二つに折られた一枚の紙を取り出し僕に渡す。
渡された紙を広げた僕は頬が緩む。
『極限!』と大きく書かれた文字の横に『ずっと一緒にいるぞ!!』
と書いてあったから。
幼稚園の時の短冊にも似たような事が書いてあったっけ。
幼稚園の時に書いた僕の小さな願い事、ちゃんと叶ってた…七夕の願い事なんて、迷信だとばかり思ってたんだけど。
【完】