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□ことのは
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―ことのは―
(文留文長編)
side 食満
「潮江文次郎」
それは気に食わない奴の名前だ。一年生の頃から、何度も喧嘩してきた。その度々伊作に止められて怒られて。しかし仲直りなどしたことがない。
それでも、協力しなきゃならない時はしたし、認めてないわけじゃないんだけれど。
(気に食わない。)
――今日は予算会議。喧嘩するのを考えると憂鬱になる。どうせ殴られ殴り、散々やって1日が終わっていくんだろう。
溜め息を吐くと、隣の伊作が苦笑した。
「もう留さんったら、始まる前から溜め息吐かないでよー」
「そういうお前は風邪気味だろうが」
「それは関係ないからね」
鼻声の伊作に怒られ、瞳をあさっての方向にやる。
「風邪引いてるんだから気をつけろよ」
「心配してくれてありがとう。だけど……」
「だけど?」
伊作は子供みたいに微笑んだ。何でか背中に冷や汗が流れる。怪しいような、生命に危機を感じるような。
「予算会議だもん、怪我しないかなぁ、って思ってるんじゃないの? 僕より文次郎の方が心配なんじゃ「んなわけあるか!!」
怒号を上げると、さらに楽しそうに笑い声がして、不愉快になった。
――けど、六年間一緒にいる伊作に言われると、本当のような気がしてしまう。
そんなこころの呟きを首を振って追い払い、この日の為に用意した漆喰砲を取りに外へ出た。
2010/02/07 up