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□frosty green
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―frosty green―
(グリレ frosty red partU sideグリーン)



 あいつは年がら年中白星を更新し続けていた。



 例え残り1匹という状況でもそれを覆し、天賦の才で勝利を重ねて。
 そう。考えてみれば、レッドは敗北を知らなかったんだ。
 それを思いもしなかったのは、きっと強さを過信し過ぎてしまったから。



 初めての負け。どんなに辛いか、俺には想像出来ない。 レッドと違って、オレは何度も負けている。だから「最強」の気持ちなんて理解し難い。



 でもまさか、こんなことになるとは。



 久方ぶりにシロガネ山に来て、最初に目に入ってきたのは恋人が自殺しようとしている姿。慌てて抱き留めたけど、レッドは何処か違うような気がした。





「……レッド。どうしたんだよ」




 口付けを止めて顔を覗き込む。何も返答はない。
 あまり口数が多くないのはいつもだけど、これはいくらなんでもおかしい。



 俯いていても、最後にはきちんと笑う奴なんだ。その笑顔に、俺は惚れたんだから、微笑んでいてくれよ。



 するとレッドは瞼を閉じて、重々しい息を吐いた。そうして、拳をつくって。





 ぽつり、呟いた。





「……けたんだ」
「?」
「……負けたんだよ、オレ。初めて、バトルで……」





 ――負けた?



 レッドが? バトルで?



「まさか、冗談だろ」
「冗談じゃない。本当だ」



 見上げてくる瞳はかつてないほどに揺れている。本当に、嘘じゃないらしい。



 昔から俺を散々負かしてきたレッドが。ロケット団を壊滅させたレッドが。チャンピオンのレッドが、負けたなんて。



 嘘みたいだ。でもそんなこと言ったら余計傷ついてしまう。とりあえず俺は、レッドを抱き締め直した。先刻とは違う、優しさと愛とを込めて。



 山ごもりしている彼の身体は、細く冷たい。きっと今、その心も同じ状態にある。





「ジョウトから来た、って言ってた。とても、瞳が強い少年で……」
「瞳が、強い?」
「そう。意志の光だよ。グリーンにもある。その人と同じくらい、強い」



 自分の瞼を撫でてみる。だからと言って光を感じられる訳じゃないけど。



 意志の光なら、お前にだってある。とびきり綺麗なのがな。
 その輝きで夢を……俺の幼い頃の夢を叶えたくせに、どうしてそんな発言をするのか。



 しかも、死のうとするなんて問題外だ。死んだら全てが終わる。



「……怖いんだ」



 ぎゅっ、と胸元を掴まれて息がつまったような感覚を覚えた。



 狂おしいほどの恐怖や苦しみが伝わってくる。どうすればよいのか、と問い掛けてくる気配もある。



 だけど、そんなの俺にだって分からない。





「……ねぇグリーン」





 レッドを見ないようにしながら仕草で応えると、そっと地面に置いていた掌に指を絡められた。
 細く、頼りない。



「寒いね」
「あぁ」
「……グリーンも、寒いよね」
「当たり前だ」



 だよな、と微笑を漏らすその動きさえもか弱い。何だかこっちまでブルーになりそうなくらいだ。
 霞んでしまいそうな笑顔。俯いてしまった花。そんなレッドはレッドじゃない。



 今すぐにオレでお前を染めてやれたなら、楽にさせてやれるんだろうか。
 生憎、「赤」は「緑」とは合わない色から無理だけど。



 レッドのことだ、そのトレーナーを恨んだりはしていないだろう。むしろ自分を責め立てて、追い込んでいる。





 分かるんだ。俺には、分かる。





「……寒いなら」





 肩を抱いてやると、微かに体重を預けられた。軽い。




 凍てつきそうな寒さ。レッドのいない俺だって、実は充分こいつと張り合えるくらい寂しい。



『帰ってこいよ』



 言えたらどんなにいいか。
 でもな。俺にとっては、お前の意志が一番だから。だから、1人で頑張っているのに。
 そんな、辛いだなんて。俺が強い前提で話されても。



 すぐに元に戻れるのに、二の足を踏んでるなんて馬鹿らしい。変だ。
 だけどお前が「ここにいたい」と笑うから――……。



「……オレは、」
「ん?」
「強いだなんて思ってない。勝手に周りは思ってるかもしれないけど」



 誉められ讃えられ。羨望される。嫉妬も憎しみもある。
 そんなたくさんの想いをこの背中に全て乗せるなんて、無茶だ。
 辛いと泣けばいいのに、でもレッドは俺以外には弱音を吐かないから。



 それは、俺も同じなんだけど。



「僕はもう最強じゃないんだ」



 頬にあるのは涙なのか、溶けた雪なのか。



「グリーンは……傍にいてくれる……?」





 そっと触れて、確かめて。





 俺は精一杯の笑顔で、「当然だろ」と告げてやった。








(俺まで不安な顔したら、レッドがもっと苦しくなる。
なら、我慢するしかないだろ?)








frosty green.





fin.









明るくするつもりだったのに結局明るくならんかった(´`)

まぁ、グリーンだって強がりしたけど寂しいんだよ、って訳です。

「frosty」を使ったのは他のでもやってみたいです。
シルバーとかゴールドをやりたいな!
ゴシルにゴーレですかね?

つーかもうすぐ受験大イベントがあるというのに私は……。

まぁ何とかなるさ!


2010/01/09 AM01:18
翠鈴

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