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□frosty red
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―frosty red―
(グリレ sideレッド)



 鈍色が広がっている。



 そこに。シロガネ山に、オレはずっといた。オレは、ずっと彼から逃げていた。





 でも。もうオレは、最強じゃなかった。





 ずっと感じたことのなかったもの。胸が押し潰されそうになり、苦しくなるもの。
 それらがひたすらにオレを責め立ててくる。





 ――その原因は、少し前、久しぶりに人に会ったことだ。
 強い眸をした、小さな少年だった。



 バトルしましょう、と手を差し伸べて。綺麗に、綺麗に笑って。



 幾年振りにしたバトルは、今までしたことがないものだった。
 レベルはこっちの方が高い筈なのに、何かが負けている。そう思う心が負けていたのかもしれないけれど。











 オレは、初めて負けた。










「………なぁ」



 傍らにいるピカチュウに語りかけると、頭を擦り付けられた。苦笑しながらそれを離して、岸壁を覗き込む。



 狂いそうになるほど、深い穴がある。



「あそこに飛び込んだらさ、死ねると思う? ……あぁ、お前はちゃんとあいつに預けるから死なないよ」



 オレは生きなくていい。
 最強として存在する必要もなくなり、ずっと傍にあった温もりはもう随分前に手放した。



 なら、いいでしょう?



 強さも愛もないのなら、オレには生きる必要などない。



 不安げな顔をする相棒を撫でて、俺は立ち上がった。



 身体を埋めているのは、少しの恐怖と、たくさんの安心。もう生きなくてよくなると、こんなにも楽になるのか。



 瞼を閉じて、少年に思いを馳せる。





「ありがとう」





 これでやっと、逝けるよ。





 足元に最後のポケモンが倒れこんだ瞬間。現実になった、ボールの中の相棒たちが全て瀕死になっている瞬間。
 それらからもたらされる、絶望。


 あの少年や、あいつがそれに耐えてきたのかと考えると、やっぱり優しく強いヒトなんだなと微笑めた。



 けれど、オレは。
 弱いから、耐えられない。



 眸を閉じて、渓谷へと足を踏み出す――、
























「レッドっ!!」


























 ――声がして、後ろから身体を抱き留められた。





 いちいち確認しなくてもあいつだと身体が教えてくれる。



 振り返ると、やはりそこには見慣れている尖った髪の幼なじみがいる。




 会うのは久方ぶりだ。話し掛けようとしたら、先に口を開かれてしまった。





「何してんだ」



 口調からして、何故か怒っている。いや、理由は分かっているんだ。



 ぎゅっ、と腕の力が倍増した。痛い、と言っても彼は身動ぎさえしない。



 そこで、やっとオレは言葉を発した。



「…………グリーン」



 ぱさり、と帽子が風に煽られて落ちた。拾おうと屈みたいけど、グリーンはそれさえも許さない。



「動くなよ」



 ごめん、と謝罪しても束縛は終わらない。
 それほどにグリーンはオレを怒っているのか。――愛しているのか。



 抵抗しても、一歩も進めない。



「グリーン、離してくれ」
「嫌だ」
「……、グリーン!!」



 目の前には死への入り口がある。あともう少しでそこに行けるのに、あともう少しが踏み出せない。



 お願いしようと首を彼に向けて、グリーンが酷く不確かな目をしているのに気付く。



 幼い頃からずっと不敵だった彼が、そんな色を映すなんて。



 それだけの気持ちが伝わってくるけれど、構わずに続けようとしたら。



「っ!?」



 ……唇を塞がれ、手首を捕まえられてキスをされた。刹那の隙に、舌まで支配される。



 刻を経ても、グリーンの口付けがオレの眸や身体、心を、泣かせそうにさせるのは、同じだった。



「やだ、ぐり……っ、」



 早く離して。じゃないと、泣いてしまう。



 ――どうして。どうして、怒るの? オレは贖おうとしただけなのに。





 ねぇグリーン。贖わせてよ。





 もうオレは最強じゃない。ただの罪人だ。
 知ってるでしょう? オレがたくさんの人を裏切って傷付けたのを。



 キスもハグも要らない。君はオレを突き落とせばいい。










(大好きだから、グリーン)








 キスなんて要らないから。早く、オレを独りにさせて。










「俺を1人にさせないでくれ」
(オレを1人にさせて?)













 ――――二律背反のようなこころとこえが、聞こえる。














Frosty red.








continue to 'frosty green'...








ここで切るか!?というところで切ってすみません。
グリーン視点でも書きたかったんですよ(´`)

ちなみに、frostyとは直訳で「凍えてしまいそうな寒さ」という意味の形容詞です。
なんちゅうタイトル付けてるんだ、私。

グリレはシリアスも甘いのもバッチコイです←

明らかに最後が投げやりになってますね。構成考えろよ。

というか、連チャンでシロガネ山のお話ですね。シロガネ山から離れろー私。

では、また続編でお会いしましょう!


2009/12/27 PM06:09
翠鈴

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