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□聖戦前に君へと
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聖戦に旅立つ前に。
―聖戦前に君へと―
(綾伊 decision PARTU side伊作)
―
side 伊作
「ねぇ、仙蔵」
「何だ、伊作」
呼び止めると、仙蔵はさも不思議そうな表情をしながら振り返った。それもそのはず、僕はあまり彼を呼んだりしないから。
「……あのさ。仙蔵って、作法委員だから知ってるよね? 綾部のこと」
仙蔵はああ、と頷いた。
「綾部か……いつも穴ばかり掘って仕事をしないな」
「あはは、そうだろうね」
「それで? 綾部がどうかしたのか」
探るような視線から目を反らして、僕は適当に「また穴にはまっちゃって」と言い訳する。
けど鋭い仙蔵はそんなものじゃ騙せない。ほぅ、と感心したような声をかけられ、内心ひやっとした。
「そうか。叱っておくよ」
「い、や、そうじゃなくて!」
――1週間前。僕は初めて綾部と話した。委員会も学年も違うから、なかなか機会がなかったんだ。
任務中だったから、少しは先輩らしい格好良い姿を見せられたと思う。
やられる寸前だった後輩はボロボロで、帰ってから慌てて手当てした。最中はずっと言葉は交わされることなく、僕はただひたすらに傷を処置した。
時折消毒の痛みに顔をしかめるのが可愛くて。
だけどそれ以来、距離はまた離れてしまった。ああ、仲良くなれたかな、と期待したのに。
「友達」になれたかな、と嬉しかったのに。
僕だけだったのかな。嬉しかったのは。
あんなに嬉しくなったの、
「久しぶりだったのに」
もう、話せないのかなぁ……?
……すると仙蔵は考え込むような表情をして、口を開いた。
「話したいなら、連れてくるが」
「へっ? ……あ、いや、」
「ああ、ちょうどあそこにいるじゃないか。――綾部!」
声の伸びた方向を見やると、踏鋤を持った綾部がいる。
ゆっくり首を傾げて、掘り途中らしい穴から出てこっちに駆けてきた。
「なんですか」
「伊作が用があるそうだ。……じゃあ伊作、私は失礼する」
「あ、ちょっ、せんぞ……!?」
止めようとした頃には時すでに遅し、姿は消えていた。
とりあえず会話を、と思っても頭はなかなか動いてくれない。
ああやっちやったよ、と後悔し、俯きながらその顔を伺うと、
(あ、れ)
何故か綾部が紅くなっているのに気付いた。手を伸ばすと、身体ごと遠ざかれてしまう。
背中を向けて、綾部が問い掛けた。
「……なんですか」
ああ何だこの空気は。まるで僕が悪いみたいじゃないか。
一杯深呼吸してから、僕はその灰色した髪に触れる。びくりと震えた彼をいとおしく想いながら、口を開いた。
「――明日から、僕、任務なんだ」
「そうなんですか」
「それがね、すごく大変なんだ。……もしかしたら、帰って来れないかもしれない」
「え」
振り返った瞳は、驚きで満たされている。痛む胸を押さえつけながら、僕は笑った。
気付かないでおくれ、綾部。本当は僕はこんなに弱いヒトなんだよ。
「だからね。君だけに伝えておくよ」
「そんな口振り、止めてください。生きて帰れないわけじゃ……」
綾部の慌てた言葉は霧散した。何故かというと、
「せん、ぱい…………?」
僕が彼を抱き締めているからだ。
逃げないように強く強く捕まえて。動揺が表れないよう、注意しながら、僕は綾部の耳元に声を届ける。
……これは聖戦。落城寸前の、戦。だから、帰ってこれる可能性は零に等しい。
でもこの危険性は誰にも告げていない。
でも、君には言った。
だから、せめて。
聖戦前に、君へと。
「聞いておくれ、僕の可愛い後輩」
君じゃなきゃ、伝えられないこと。
聞いてくれる…………?
continue...
―
まさかの綾伊続編。
内容からして分かると思いますが、続きます。
久しぶりの落乱更新がゴーイングマイウェイ……。
緋灑や灰槞に「続編!」と命令されたからです←責任転嫁
仙蔵はおそらく感付いたでしょうね。聡い人間ですし。
次は食満も出したい…。
それでは、続きますので待ってて下さい!
2009/12/20 PM05:31
翠鈴