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□霧森聖一郎の探偵家業
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翌日。

私は何故かホテルの一室の“殺人現場”などにいた。

「………」


言葉にならないというのはこういうことを言うのであろう。

確かに、目の前の情景は理解しがたい現実を表していた。

「ふむ…絞殺か」

隣で思慮的に唸っているのは霧森聖一郎。

頭にはソフト帽を乗せ、背はヒョロっと高い。顔はテレビで見るアイドルのように整っていて、気を許すと見惚れてしまうほどである。

「絞殺…を考察する……ククク」

ギャグのセンスは、イマイチ。

「…はぁ…」

「君はどう思う?」

聖一郎はチラリとこちらを見やる。

「…この死体、ですか?」

「いや、今のギャグについてだ」

「最低です」

「いい答えだ」

何がいい答えなのか分からないが、お気に召したのは確からしい。

しかし、改めて死体に向き直る。

私の目の前に後ろ向きに見える、大画面液晶テレビの前ソファに鎮座した死体。

恰幅のいいオジさん、見るからに社長というようなガウンを羽織っている。

絞殺と言うように、首には紐状の青痣が残っている。

「…この人、かなりリラックスしてたんですかね?」

「いいところに気がついたね」

パチンと指を鳴らす。

「そう、この死体は犯人に対して抵抗していないんだ」

聖一郎はそう言って死体の首の索溝を指す。

「ここ、普通抵抗するとしたらまず首の、まぁ、ここは“縄”と仮定しておこう。それを取ろうとして、爪で引っかいてしまうものなんだ」

私はそれが死体だ、ということも忘れて見入ってしまう。

「それがないということは、薬で眠らせられたか…」

「気を許してしまうほどの相手であった」

「その通り」

「でも、おかしいですよ…この方、何でソファで正座なんか」

「その謎は、おいおい解明するだろう、と…」

おもむろに部屋を見渡す。

デスクの上には鞄があり、財布や時計、携帯電話が散在していた。

彼は許可も取らずに財布の中身を確認する。

「…って、警察が来る前なのにいいんですか!?」

「あぁ、大丈夫、大丈夫、ちゃんと手袋もしてるし。それに警察とは仲良しこよしさんだからね」

「…それも何かのネタですか?」

ひとしきり中身を確認して、元の位置に戻す。

「ふむ…現金はある。カード類もなくなった形跡は見られない」

「じゃ、物取りではない?」

「…と考えるのが妥当だね」

次に携帯電話を手に取り、データを見始めた。

「…これ、中身、出来るだけコピーしといて」

携帯電話が宙を舞う。
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