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□霧森聖一郎の探偵家業
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私は藤林早苗(ふじばやしさなえ)。

華も恥らう二十二歳。

大学進学のため、東京に上京してから三年。


初夏。


社会への扉を叩く登竜門“就職活動”の時期がやってきたわけです。

ここを無事に突破できなければ、苦しいながらも送り出してくれた母さんに申し訳が立たない。

しかしながら、昨今の大不況の影響はどの業界にも多大なるダメージを与えていて、どこの面接を受けても手ごたえがない。


「はぁ〜…この間の会社もダメ…」

送られてきた不採用通知を丸めて、ゴミ箱へ放る。

放物線を描いて飛ぶ紙玉は、ゴミ箱の淵に当たり、外に弾かれる。

ここでも不採用らしい。

「…くぅ…」

さすがにイライラする。

不採用通知もこれで三十社は超えた。

何処も彼処も苦しいのは理解出来ているつもりではある。だが、ここまで来ると何が悪いのか分からない。

正直、ルックスも申し分ないと自負している。その上、成績も悪くない。女子大出身で、お嬢様的な振る舞いは身についているはずだ。

落ちる要素はあまり見当たらない。


「…私の男嫌いが原因かしら!?」

男嫌いと言っても、女子大特有の苦手意識みたいなものだ。

そのせいか、ここ三年は彼氏らしい異性の相手もいない。

合コンにはよく誘われたが、全て断ってきた。
何か自分の求めるものとは違う気がしたからだ。


「まぁ、落ちたものは仕方ない。切り替えていかなきゃ…」

思考をポジティブに切り替え、放り投げてあった鞄を自分の元へ引き寄せる。

「明日は…“霧森社”か。全然知らない会社ね」

早苗は取り出した募集要項をぺらぺらとめくる。
面接を受ける会社の情報くらいは頭に入れておかないと受かるものも受からない。

そこには、他社と何ら変化のない定型的な内容文が羅列されているだけだった。

しかし、その中にあって違和感を覚える文面を見つけた。

それは面接者に対しての会社からのコメントだ。

「…『ノリのよさ』って何よ??」

はっきり言っておかしい。

一般的には『やる気』だとか『コミュニケーション』だとかを求められるものなのだが。

それとも、社交性の一種だろうか。

「まぁ、どっちにしても問題なさそうね…」

問題なのは会社のランクだ。

会社がもぐら叩きのように現れては消えていく時代、少しでも長く社会人として職を持っているためにはランクも重要となってくる。

内定が出ているのに倒産した、なんて話はよく聞く。

「楽勝そうなのはいいとしても、簡単に潰れられたら堪んないのよね…」

大手企業の面接は腐るほど受けてきた、並大抵の圧迫面接にも耐えうる自信もある。

明日の“霧森社”というのはあまり情報が出回っていないマイナーな部類、いわゆる滑り止めのような位置づけになる。

「業種もよく分からないし…」

調べようにも、ホームページすらなく情報が全く入っていないのだ。
この募集要項もようやく手に入れた貴重な情報源のはずだったが、あまり役に立ちそうにない。

早苗は要項を机の上に放り投げ、スタンドライトを消した。

「ま、なるようになるか…」

重力に任せてベットに倒れ込む。
そのまま、眠りにつく。
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