お話(完結)

□拍手
1ページ/7ページ

【嵐】


小学校に入ってすぐの夏休み。
私は友達の家に遊びに行った。

「いらっしゃい。」

優しく笑う友達のお兄ちゃんにドキドキした。


だけど、もう…
あの頃の純粋な思いは消えている。


カガリ・ユラ・アスハ
16歳
大人です。




「まだ帰ってきてないけど?」

暑い夏休みが始まったばかり。
昼間のクーラー禁止を言われ、扇風機を一人占めしていたのに…

「いいじゃん、もうすぐだろ?」

一時期は毎日のように来ていた家。
勝手知ったる顔でカガリは扇風機の前に座った。

「麦茶ちょうだい。」

横暴と言うか、横柄と言うか…
制服のボタンを外しながらカガリが言うと、シンは渋々と麦茶をつぎに立ち上がる。

「シン、宿題は?」

「するわけねぇだろ?カガリは?」

台所で麦茶をコップに入れて戻ってくると、

「もう終わった。」

「は?」

毎年、お互い最後の一週間で終わらせる仲だというのに…

「う、うそだろ?」

信じられないシンをよそにカガリは涼しく答える。

「本当。」

「……………なんで?」

夏休みの課題をたった数日で終わらせるなんて。

「私、今年の夏に賭けてるんだ。」

カガリの宣言にシンはなんだか嫌な予感を覚える。

「まさか…」

カガリの一番をシンは知っている。

「そ!アスランさんを自分のものにする!!」

カガリは拳を握ると力強く叫んだ。

「だって大人になったんだもん!」


小学校を上がると同時に向こうは中学校に入る。
全然埋まらない歳の差。
それでも近くにいたのに…

大学は遠くに行ってしまうアスランにカガリは思いきって告白した。

『カガリが大人になったらまたおいで。』

頭を撫でられ、にっこりと笑われれば何も言えない。

「あれって遠回しの断りだと思うけど?」

シンの突っ込みにも耳をかさず、カガリは一人で燃え上がる。

「夏休みは全部、アスランに捧げるんだ!」

いつの間にか呼び捨てになっている。

「見てろよ!絶対に振り向かせる!」

恋する乙女は強いのだ。
そして年季が入っているぶん、諦めが悪い。

「…兄貴、帰ってこないほうがいいんじゃないか?」

自分の麦茶に口をつけて独り言を言っていると、外から車のエンジン音。
帰ってきた!と叫んでカガリはいなくなった。

「あ〜、今年の夏は暑くなりそう…」

シンは扇風機の前に寝転んだ。
熱い日差しと扇風機の回る音、そして…

「あの勢いだったら死ぬまで諦めないな。」

カガリと兄の叫びに一段と暑さが込み上がってくるのであった。


《嵐・終わり》
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ