リクエスト
□ラビリンス
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夕暮れ
日が傾くのも早くなってきた。
築10年は経っているであろう安アパートに元気よく階段を上る音が響く。
「ただいま」
カガリは勢い良く扉を開けた。
「おかえり」
出迎えてくれたのはエプロン姿の母。
「あれ?今日は早いじゃん」
母はパートの事務員だが、毎日残業で遅い日々が続いていた。
「今日は遅くなりそうなの。だから一度、帰ってきたの。」
どうやらカガリの夜ご飯の準備に帰ってきたらしい。
「そんなにしなくてもいいのに…高校生なんだからご飯くらい自分で作れるよ!」
「あら、そう?」
カガリの言葉に母は首を竦める。
「だって、お母さんだって頑張ってるのに…ねぇ、私、高校辞めて働いたっていいんだよ?」
カガリに父親はいない。
高校に入って両親は離婚した。今まで専業主婦だった母は、慣れない仕事を慌ただしくこなしている。
「駄目よ。高校くらい出なさい。」
「だって…」
「うちは大丈夫よ。それにあんたの学費はただなんだから!」
カガリは高校でバスケットボール部に入っている。体育特待生なのだ。
「…ならいいけど。」
「本当は前みたいにバスケットに集中させてあげたいんだけど…ごめんね。」
小さく笑う母にカガリは首を振る。
「なに言ってるんだよ。お母さんは悪くないよ!」
「カガリ…」
「みんな、お父さんが悪いんだ!」
怒鳴るカガリに母は静かに俯いた。
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