『琥珀の露・下巻』
□第七章〜真実〜
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この時ばかりは雷洸が現れてくれて良かったと思った。
そうでなければ贄の儀はつつがなく行われ、私は間に合わなかったかもしれない。
雷洸と三妖との間に距離ができ、彼の視線がこちらに向けられた。
苛立ちを含んだ目が私を映してすっと細められる。
「なんでや!?」
「あの馬鹿!」
「志穂ちゃん!? どうして?」
きっと朔夜のかけた術はあの夢がなければ破れず、儀式が終わるまで私は眠り続けたままだっただろう。
それを知っているからこそ、現れるはずのない私が来た事に彼らは驚いていた。
雷洸がこちらに向けて足を踏み出すと、それを阻むように三妖が間に割って入った。
「今すぐここから離れろ」
低く怒気を孕(はら)んだ颯の声。
「嫌よ。離れない」
「志穂」
咎(とが)めるように名を呼ばれる。
「贄の儀は行わせない、絶対に」
颯が苦々しげに舌打ちし、晴海と朔夜は困惑したように顔を見合わせた。
「仲間割れ? まあ、贄の儀が行われないなら僕にとっては好都合だけど……、どういうつもりなの? 巫女」
「封印から手を引いて下さい。あなたは誤解している」