『琥珀の露・下巻』

□第七章〜真実〜
2ページ/15ページ


 この時ばかりは雷洸が現れてくれて良かったと思った。

 そうでなければ贄の儀はつつがなく行われ、私は間に合わなかったかもしれない。

 雷洸と三妖との間に距離ができ、彼の視線がこちらに向けられた。
 苛立ちを含んだ目が私を映してすっと細められる。

「なんでや!?」
「あの馬鹿!」
「志穂ちゃん!? どうして?」

 きっと朔夜のかけた術はあの夢がなければ破れず、儀式が終わるまで私は眠り続けたままだっただろう。

 それを知っているからこそ、現れるはずのない私が来た事に彼らは驚いていた。

 雷洸がこちらに向けて足を踏み出すと、それを阻むように三妖が間に割って入った。

「今すぐここから離れろ」

 低く怒気を孕(はら)んだ颯の声。

「嫌よ。離れない」
「志穂」

 咎(とが)めるように名を呼ばれる。

「贄の儀は行わせない、絶対に」

 颯が苦々しげに舌打ちし、晴海と朔夜は困惑したように顔を見合わせた。

「仲間割れ? まあ、贄の儀が行われないなら僕にとっては好都合だけど……、どういうつもりなの? 巫女」

「封印から手を引いて下さい。あなたは誤解している」


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ