『緋色の欠片』
□二度目の悲劇
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「……うっ」
妖狐が呻き、ゆっくりと目を開ける。
「大丈夫ですか?」
彼の視線が虚空をさまよい、私に向けられた。
驚きに目が見開かれるのと、手が伸ばされるのは同時。
「きゃっ」
引き倒され、半身を起こした彼に喉元を絞められる。
けれど彼の眼は、怯えるように揺れていた。
危害を加えようとしているのは、彼なのに。
「何を、恐れているのです?」
そっと問うと、手が緩められた。
「娘、我(われ)が恐ろしくは無いのか?」
「何故です? 貴方は邪悪な者ではありません」
困惑する彼。手が外される。
「人間は、我らを恐れるものだろう?」
私に問うてくるその姿は、迷子の子供のように不安げで。
「私も、人ではありませんから」
安心させるように、私は微笑んだ。