『琥珀の露・短編』
□十五夜の月・朔夜
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十五夜の夜。
空に浮かぶ丸い月があまりにも綺麗で、私は立ち止まって空を見上げた。
傍らに、人の立つ気配。
「いつまで経っても来ないと思ったら、こんなところで立ち止まって。……どうしたの、志穂ちゃん?」
少しだけのつもりが、随分長く立ち止まっていたらしい。
「ごめんなさい、朔夜先輩。月が凄く綺麗だったから、つい……」
朔夜が微笑み、空を見上げた。
「確かに綺麗だね。志穂ちゃんが見惚れてしまう気持ちも分かるよ」
柔らかく優しい月明かりの下、穏やかな笑みを浮かべて月を見上げる彼の横顔は、まるで作られた人形のように綺麗で。
少しだけ、見惚れてしまった。
「どうしたの?」
月から私へと視線を戻した彼が問う。
「な、何でもないです……」
思わず見惚れてしまったと言うのは恥ずかしくて、慌てて視線を外す。
そんな私の様子から事情を察したらしい朔夜が、すっと手を伸ばしてきた。
仄かに温かい手が頬に触れ、朔夜と見つめ合うかたちになる。